●トランプ大統領のアメリカ軍再編成に巻き込まれた日本
トランプ大統領はアメリカ第一主義を貫き国内外の政策を連発している。その中で関税とアメリカ軍の再編成は日本の経済と国防に関わるが石破首相の対応は鈍い。トランプ大統領が主導権を持ち石破首相は有効な外交カードを匂わせることもしていない。
在日米軍の再編成がアジアの安定に関わることは明らかだが石破首相は中国との関係を重視する動きを見せている。トランプ大統領がアメリカ軍の再編成で日本にアジア防衛の役割を任せることを匂わせても石破首相は対応する素振りすら見せていない。
●兼任から専任へ
トランプ大統領は軍事費削減で国民の負担を軽くしたい。そこで日本政府に日本の防衛費を国内総生産(GDP)比3%に上げるよう求めている。だがアメリカ軍はトランプ大統領とは異なり軍事の視点から在日米軍の再編成を堅持する方針だ。これは軍政と軍令は別物であり、トランプ大統領は軍政を担い宣戦布告・停戦・休戦・国軍に戦争の政治目的を付与する。それに対して軍は軍令を担い軍隊の組織と運用は経験則に従い原則として自由の世界。
・軍政:宣戦布告・停戦・休戦・国軍に戦争の政治目的を付与する。
・軍令:軍隊の組織と運用は経験則に従い原則として自由。

在日米軍の再編成は統合軍司令部は人事を兼任から専任へ変更し、統合軍司令部は直接指揮する部隊を持たない司令部のみになる。これは異例ではなくアメリカ軍が多用するスタイルで、平時は司令部のみで運用し戦時になれば世界各地から部隊を集結させて司令部に組み込む運用。これは司令部から戦場近くに配置して後から指揮下部隊が集まる。アメリカ軍としては攻勢的な運用だから、中国を意識した編成だと推測する。
■<独自>在日米軍の再編概要判明 主要部隊指揮せず、司令官は海軍起用案浮上
https://www.sankei.com/article/20250329-U5BXJHFIBBLQRCN66IXHRCVBDA/
在日米軍の再編成計画は古代ローマ帝国軍から使われている古典的な構想。それだけ堅実でありアメリカ軍が使う手法の根拠になっている。古代ローマの初代皇帝オクタビアヌスはライン河の線を国境と定めた。次にエルベ河の線を「国防線」と定め、この二つの河の間を「緩衝地帯」と定めた。
仮に敵勢力が緩衝地帯に侵入すると侵攻と見なして撃破する構想を定めた。特定の戦域に敵勢力が侵入すると該当地域の部隊が防御する。この間に遠方に配置された複数のローマ軍を戦場に集結させる方式だ。
このためにローマはローマ街道を整備し軍隊の迅速な移動を支援した。現代のアメリカ軍は第二次世界大戦後から世界各地に基地ネットワークを整備した。このためアメリカ軍は世界各地に分散した部隊を戦場に集結させることができる
●日本の政治家は国防を軽視
アメリカ軍の歴代大統領は軍政を担いアメリカ軍に変化を求めた。それに対してアメリカ軍は軍令を持ち常に世界情勢に対応できる運用をしている。これが世界の現実だが、悲しいことに日本は戦後から歴代政権は国防軽視で生きている。
■国防方針 :領土・領海・領空を戦場にしない(戦場は国境から国防線の緩衝地帯)
■国防方針の手順
1:国防の基本方針で防衛の目標を定める。
2:どのように守るかの「戦略」を立てる。
3:仮想敵国に対する「防衛戦争計画(Defense war plan)」と「有事動員計画」を作成するとともに予期しない脅威の発生に対応する「不測事態対処計画(contingency plan)」を備えておく。
4:防衛戦争の危険が発生しないように国際社会と協力する「関与の戦略」を立てる。
5:戦闘ドクトリンを研究開発し、それを演練する常備軍を編制する。そして防衛戦争計画と動員計画の発動に備えた「平時体制」を整備する。
6:防衛インフラストラクチャーを強化するため基地を戦略的に展開・整備する。
政治家が国防方針を定め、自衛隊は大陸の海岸線を国防線に定め国境までの緩衝地帯で戦闘する。これは仮想敵国が国境の内側に侵攻してから反撃すると沖縄戦のように国民を戦争の惨禍に巻き込んでしまう。だから国民を守るために国防線と国境の中で戦闘することが基本。
そして国防方針を成立させる手順を実行するが、政治家が国防方針を定めなければ自衛隊は手順を進めることができない。何故なら政治家が軍政を担い自衛隊が軍令を担うからだ。このため今の日本に国防方針がないのは自衛隊の責任ではなく政治家の無関心が問題なのだ。
このため自衛隊は陸海空の共通した戦場がない状態であり、陸海空を統合運用する戦闘教義を持っていない。自衛隊独自の陸海空を統合運用する戦闘教義は松村劭(陸将補 故人)氏が日本初の戦闘教義研究者であったが理解されることなく世を去っている。
●アメリカ頼みの日本
トランプ大統領は石破首相に防衛費を国内総生産(GDP)比3%に上げるように求めているが石破首相は無視している。数字で言えば常備軍の総兵力は総人口の1%が限界であり少子高齢化の要素を加えると自衛隊の総兵力は80万人が限界であり50万人が軍縮規模の総兵力になる。
つまり今の日本は自衛隊総兵力を今の23万人から軍縮規模である50万人まで増員しなければならない。この50万人に最新兵器を与え訓練することが求められる。しかし今の23万人から50万人まで増員することは30年計画が必要だ。何故なら練度を維持しながらの増員と官舎の増築が求められる。さらに自衛官の名誉と待遇改善が必要な悲しい現実が存在する。
今の自衛隊は政治家から見れば日本が独立国家であることを示すための飾り。だから最低限の地位と予算で運用されている。そんな時にトランプ大統領が外圧で国防費に干渉したのだから自衛隊としては都合が良い状況になった。さらに国防から見てもトランプ大統領の干渉は国民の生命を守る流れになっている。悲しいことにアメリカ軍の再編成は日本の国防だけではなく国民の生命を守る。このためアメリカ軍を頼みにしなければ日本を守れない状況を石破首相は理解すべきだ。
(この記事はオンライン版の寄稿であり、必ずしも本紙の論調と同じとは限りません)