長年、沖縄県知事選で最大の争点だった米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設を巡っては、移設工事に関する国と県との裁判が終結したことで今回の争点にはなりにくい。

日米両政府が普天間返還に合意してから4月で30年が経(た)った。政府は「辺野古移設が唯一の解決策」という姿勢を崩さない。東側海域の軟弱地盤の存在が判明し、工事が遅延。現在、返還の時期は2036年1月以降とされている。
玉城デニー氏の前任、翁長雄志氏(故人)が知事に就任した14年からイデオロギー対立が目立つ。緊迫する南西諸島の安全保障環境は待ったなしの状況だ。知事選における「安全保障・基地問題」を巡る論争では、どの候補が正しい現状認識を持ち、実務的な交渉力を持っているかが問われる。
■工事阻止の権限失った県
《玉城氏》 自衛隊南西シフト反対
現職の玉城氏は、8年前の1期目から一貫して辺野古「新基地」建設反対を掲げている。辺野古移設の是非を問う県民投票で、反対が容認・賛成を上回った結果を後ろ盾にしてきた。しかし、この2期8年間、国を相手に起こしたすべての裁判は敗訴または取り下げが確定した。最終的には国による「代執行」の手続きが行われたことで、知事としての工事を阻止する法的な権限は事実上すべて失われた。

埋め立てが進み、法的な対抗手段がない今も、玉城氏は「裁判での結果は出たが、引き続き反対の民意を掲げて対話を求める」と主張。日米両政府と沖縄県による「三者協議の場」の設置を強く要請する方針を示す。告示後の第一声では「辺野古は絶対完成できない。絶対反対」と訴えた。
陣営の幹部は「反対ばかり訴えても無党派はついてこないどころか離れていく。これまでの実績をどう訴え、3期目に向けて何をするかアピールするかが問われる」と強調。「有権者には辺野古移設論争疲れがある」と指摘する。普天間飛行場の危険除去への道筋が見えない点が最大の課題だ。
また、自衛隊の南西シフトについても、「これ以上の基地強化や長距離ミサイルの配備、共同軍事訓練には反対」と非戦の立場を貫く。24年3月に策定した県の「地域外交基本方針」に基づき、アジア太平洋地域との対話を推進する考えだ。
《古謝氏》 一定の抑止力は必要
これに対し、新人の古謝玄太氏は「現実路線」を打ち出す。古謝氏は「辺野古移設問題の普天間飛行場の危険性除去」と強調。「裁判が終わり、工事が進み、代替案が議論されていない現状では移設が(危険性除去には)最も早い」と容認の理由を説明した。辺野古移設を容認する自民、日本維新の会、国民民主、参政などの与野党を超えた保守系各党から推薦を得ており、玉城氏よりも勢いがある。

基地返還に伴う跡地利用にも意欲を示す。「嘉手納以南の米軍基地の返還を進め、広大な跡地を一体的に開発し、経済効果と新たな雇用を生み出す」と公約に掲げた。
自衛隊の南西シフトについては、厳しさを増す安全保障環境から「一定の防衛力は必要」と理解を示しつつ、基地負担軽減とのバランスや住民への丁寧な説明を国に求める姿勢を取る。
■有事の住民保護で温度差
沖縄は抑止力のみならず、有事における住民避難(国民保護計画)の実効性が問われる。特に宮古・八重山などの先島諸島およそ12万人の住民を九州各県と山口県に避難させる政府の計画が25年3月に公表された。玉城氏は、「先島住民から避難先での生活への不安や、家屋・家畜の被害に対する経済的補償への不安の声が上がっている」とし、政府に要望を出すと説明した。一方、古謝氏は、「外交努力による平和維持が大前提」としつつ、万が一の備えは必要であるとし、現在の計画の実行性を検証すべきだとの考えを示した。
また、告示直前に立候補を取り下げた下地幹郎氏が自民党と結んだ政策合意には、「辺野古移設工事を工程通り進め、36年に終了させ、その後速やかに普天間基地を返還する。その期日を明らかにする」と明記された。
このほかの立候補者4氏も、辺野古移設や安全保障政策で訴える。琉球独立党の屋良朝助氏は、琉球自治共和国の設立を掲げ、県内の全米軍基地の一斉撤去と日米安全保障体制の解消を迫る。 兼島俊氏は、日米安保や基地の維持を認めつつ、抑止力向上より住民の避難体制整備の優先を主張する。 末吉正弘氏は、辺野古移設に反対。日米安保は維持しつつ、在沖米軍基地については負担の全国分散を求める。 比嘉隆氏は、コロナワクチン接種の中止や後遺症対策を最優先公約に掲げている。 (沖縄支局・竹澤安李紗)
■基地・安全保障政策の公約比較
【古謝氏】
・辺野古移設は容認
・米軍基地返還に伴う跡地開発
・自衛隊の南西諸島防衛に理解
【玉城氏】
・辺野古移設は反対
・米軍基地の大幅な整理縮小
・自衛隊の南西諸島防衛に反対








