厳しい国際情勢下で日本の安全保障の在り方を問う「沖縄安全保障シンポジウム」(主催・平和・安全保障研究所、笹川平和財団)が7日、那覇市で開かれ、約100人の参加者が集まった。基調講演をした元統合幕僚長の山崎幸二氏は国家安保戦略の意義を説明し、「沖縄は安保の第一線であり、沖縄県民は各自が国の方向性を語ることのできる姿が求められている」と安保観の熟慮を促した。(沖縄支局・竹澤安李紗、写真も)

◇安保3文書改定
山崎氏は、2022年12月に策定され、防衛予算の国内総生産(GDP)比2%への引き上げや反撃能力(敵基地攻撃能力)保有を明記した国家安全保障関連3文書の作成に携わった経験を持つ。
安保3文書策定には国民意識の変化も後押しした。内閣府の世論調査で自衛隊の増強を支持する人の割合が年々増加傾向にある。25年末に実施された最新調査では、「増強した方がいい」と答えた人が45・2%と過去最高だった。特に国民の意識を変えたのは22年2月のロシアによるウクライナ侵攻で、日本社会は「防衛力を抜本的に強化しなければならないと覚醒した」と山崎氏は当時を振り返った。
岸田文雄首相(当時)は22年、アジア太平洋地域で最大規模の安全保障会議、シャングリラ会合で13年策定の安保戦略を見直し「5年以内に抜本的に強化する」と世界に発信し、国内外から期待を集めた。高市早苗首相も安保3文書の前倒しでの改定を表明している。最新の自民党政権公約では「日米同盟を基軸に自由で開かれたインド太平洋(FOIP)を力強く推進」すると書かれている。
FOIPは16年8月、ケニア開催のアフリカ開発会議(TICAD)で安倍晋三首相(当時)が打ち出した経済圏の拡大とともに安全保障面での協力を狙いにした外交戦略だ。安倍政権でのFOIPと岸田政権での安保3文書策定、そして高市政権での前倒し改定への流れを、山崎氏は「ホップ、ステップ、ジャンプ」だと評価した。
防衛省は25年10月24日、小泉進次郎大臣を議長に防衛力変革推進本部を立ち上げた。安保3文書を実行に移すための取り組みだ。同本部の4日の会合では①敵部隊の射程外から攻撃するスタンド・オフ防衛能力②統合防空ミサイル防衛能力③シーレーン防衛――が議題に挙がった。山崎氏は「現政権が安保3文書改定に向けどのようにリードしていくか注目しなければならない」と指摘した。
◇地政学上のリスク
高市首相がなぜ防衛予算の増額を5年ではなく3年でするという方針を示したのか。山崎氏は「その背景には〝戦後最も厳しく複雑な安全保障環境〟があることを知ってほしい」と、中露朝など日本を取り巻く地政学上のリスクを解説した。
中国は22年10月の共産党大会で、ウクライナ侵攻を踏まえ自国に有利な「戦略的チャンス」と表現し、国防費を著しく増強している。さらに、北朝鮮は24年6月、ロシアと相互防衛の「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結し、ウクライナ戦に派兵したことで、北朝鮮が実戦で学んだ兵力を持つことが「更なる不安定要素となる」と山崎氏は説明した。
さらにウクライナ侵攻によって「核の脅威が顕在化した」というが、核兵器には2種類ある。大型の核と小型の戦術核だ。この戦術核によって核兵器使用の「敷居がこれまでより低くなっている」と指摘。ロシアは米国含む北大西洋条約機構(NATO)加盟国に「核の恫喝(どうかつ)」を行い、武器供与を牽制(けんせい)している。山崎氏は、日本の全方位から同時に攻められる事態にも対策する必要性を示唆した。
◇自国は自分で守る
日本は①自分の国は自分で守る②戦争を起こさないための抑止力が必要③同盟国・同志国との連携が重要――。山崎氏はこうした教訓を、ウクライナ侵攻だけでなく、西部方面総監部幕僚副長を務めていた際に起きた10年9月尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件からも得ている。
ヒラリー・クリントン米国務長官(当時)は、日米安全保障条約第5条(対日防衛義務)が尖閣諸島に適用されることを初めて明確に発言した。山崎氏は当時の米軍側とのやりとりを紹介した。
「米側は『尖閣は単なる岩ではないか。人は住んでいない。中国兵が島に上陸したらお前は銃で撃つのか』と問われ、私は『撃つ』と答えた」
マーク・ミリー米統合参謀本部議長(当時)に対し、山崎氏は「米軍が来なかったら日米同盟が破綻する時だ。尖閣は法と秩序の最前線だ。もし尖閣を日米が守れなかったら世界の法と秩序はここから崩れる。尖閣で行われることが世界でも起こる。だから日米同盟が重要で抑止力が大事だ」と話をしたという。「自国は自分で守るという覚悟で防衛体制を作ることで米国も動いてくると分かった瞬間だった」と語った。
山崎氏は「国の防衛において自衛隊は代表選手だが、国民一人一人に責任がある。防衛力や抑止力の強化に向けて国民が自衛隊をしっかり支えていくことが今後求められる」と考えを示した。
シンポジウムでは、山崎氏と共に外務省沖縄担当大使の紀谷昌彦氏や国際日本文化研究センター教授の楠綾子氏、東京国際大学特命教授の村井友秀氏らが、平和・安全保障研究所理事長の德地秀士氏とパネルディスカッションで議論を交わした。






