
沖縄県内で、いわゆる「ゾンビたばこ」と呼ばれる違法な危険薬物の乱用が広がりつつある。本来は麻酔薬として用いられる「エトミデート」という成分を電子たばこのリキッドに混入させて吸引するというもので、意識が混濁し、体の制御が利かなくなることから「ゾンビ」のような異常行動を示すとして社会問題化している。これらの危険ドラッグが若者を中心に出回っており、県や警察は注意を呼び掛けている。(沖縄支局・川瀬裕也)
エトミデートは日本では未承認の医薬品で、海外では鎮静薬として利用されている。2024年秋ごろから沖縄本島南部のナイトクラブや繁華街で出回り始め、若者を中心に拡散した。吸引後は体が宙に浮いたような感覚に陥り、手足の震えや情緒の混乱が生じ、過剰摂取では命の危険すら伴う。海外のドラッグの利用者と思われる人物が撮影されたSNS上の動画には、ゾンビのように体を震わせながらフラフラと歩いたり、道端に寝っ転がる奇行が映し出されている。
こうした危険性を受け、厚生労働省は5月、エトミデートを「指定薬物」に指定し、所持・使用を禁止した。これを機に沖縄県警は摘発を強化し、那覇市や浦添市で10代の少女や20歳の若者が逮捕されるなど、摘発が相次いでいる。
ネオンが瞬き、観光客と地元客が入り混じる那覇市松山の繁華街。夜明け前までクラブの扉からは音楽と笑い声が漏れ、路地にはタクシーが行き交う。その華やかさの一方で、薬物の影が忍び寄っていた。
松山のナイトクラブで働く30代の男性スタッフは、名前を明かさないことを条件にこう証言する。
「知り合いの客が、ゾンビたばこらしきものを路上で吸っているのを見た。最初は普通に連れと会話していたと思ったら、急に体をガクガク震わせながら道路に崩れ落ちた。救急車を呼ぼうと思ったが、連れに抱えられタクシーで帰っていったため、その後どうなったかは分からない」
男性によると、ここ数カ月で、路上で急にフラフラしだす人や奇声を上げる若者が増えているように感じるといい、スタッフの間でも危機感が高まっているという。
県の保健医療介護部によると、今年6月末時点での危険ドラッグが原因と疑われる救急搬送者数は8人で、うち2人はエトミデートを含むドラッグの使用が疑われているという。
地元紙などの調べによると、これらの危険ドラッグの供給は中国や台湾を経由し、SNSを通じて密売されているとみられている。取引にはメッセージアプリのテレグラムやX(旧ツイッター)が使われ、暴力団や台湾マフィアなどの関与も疑われている。前出の男性スタッフによると、「松山では半グレ集団が売買の窓口になっていると聞いたことがある」といい、沖縄の若者をターゲットにマーケットの拡大を狙う組織的な動きがあるとみられる。

薬物の中でも、世界的に深刻化しているのが合成オピオイド「フェンタニル」だ。モルヒネの50~100倍の鎮痛作用を持ち、米国では年間5万人以上が関連死しているとされる。わずか2ミリグラムで致死量に達するほど強烈で、アメリカ社会を揺るがす薬物問題に発展している。
日本国内では、現時点でフェンタニル乱用が広がっている事実は確認されていないが、日本を介するフェンタニルの密輸ネットワークが存在していたことが全国紙の報道などでこのほど明らかとなった。名古屋で流通の主犯を担っていたとされる中国系企業は当初、沖縄に拠点を置いていたことからも、沖縄が国際的な麻薬流通ルートの一角を担っている可能性が指摘されている。
捜査関係者の間では、「米軍基地が多く、本土に比べ水際の監視が手薄で、地理的にアジアの取引網に近い沖縄は、麻薬の穴場として利用されやすい」との声もあるという。
薬物乱用が若者の命と未来を奪う前に、行政・警察、地域社会が連携し、監視体制を強化する必要がある。沖縄が「薬物の通り道」でなく「防波堤」となれるか、行政の本気度が問われている。






