
沖縄で反自衛隊運動が激しさを増している。宮古島で駐屯地司令と市民団体が対立したのを発端に、抗議は文化行事にまで及び、8月31日には宜野湾市で開かれた日米ジョイントコンサートの会場前でも抗議が展開された。自衛隊の活動や存在そのものを否定する声は、地域社会の分断を深めるだけでなく、日本と沖縄の安全保障体制に影を落としかねない状況となっている。(沖縄支局・川瀬裕也)
8月31日、宜野湾市の沖縄コンベンションセンターで陸上自衛隊第15音楽隊と米海兵隊第3海兵遠征軍音楽隊によるジョイントコンサートが開かれた。その入り口付近では、市民団体が横断幕やのぼりを掲げて「市民を恫喝(どうかつ)する自衛隊は沖縄から出ていけ」などと抗議の声を上げた。
参加者らの手にしたプラカードや横断幕には、「ミサイルを直ちに持ち帰れ」や「日米合同音楽会は戦争訓練の狼煙(のろし)!」などと書かれており、中には「天皇制粉砕」と書かれたのぼりを掲げる人物も見られた。
事態の発端は8月6日、宮古島駐屯地司令の比嘉隼人1等陸佐が、防災訓練途中で抗議活動を行う市民団体と遭遇。訓練場所の使用許可などを巡り口論に発展した。市民団体側は「威圧的恫喝」だったと主張し、謝罪を要求した。
これに対し、比嘉司令は後に「威圧的と捉えられたなら本意ではない」と説明したが、市民団体側は「心理的被害を受けた」と反発。謝罪は不十分で法的措置も検討すると強硬姿勢を崩していない。
その後、防衛省は司令の処分を見送り、第15旅団長による「口頭指導」にとどめた。政府としては現場の対応を重視し、懲戒には値しないと判断した格好だが、市民団体共同代表の清水早子氏らは抗議声明を発表するなど、事態は収束の兆しを見せていない。
音楽会に合わせ、反自衛隊の市民団体らはSNSなどで抗議のための「会場前集合」を繰り返し告知していた。
現場では一時、抗議者と来場者が揉(も)めるシーンもあった。ある目撃者によると、コンサートのため来場したとみられる男性が、「平和的な(日米の)文化交流まで邪魔するのはおかしい」と語気を強めて主張すると、抗議者らは「それほどまでに自衛隊の活動は止めなければならない段階に来ている」などと反論したという。
これらの一連の動きについて、反基地運動に詳しいある有識者は、「これまでの県内の市民運動の多くは、米軍基地に対する抗議が主流だったが、近年は自衛隊の配備や訓練を標的にした『反自衛隊』の色合いが強まってきている」と警鐘を鳴らす。
今回のような文化交流の場での抗議活動は、自衛隊員に対する社会的な攻撃に繋(つな)がる懸念が指摘される。自衛隊と地域住民との亀裂が深まれば、抑止力の基盤そのものが揺らぐ事態になりかねない。





