
「南西シフト」に影響か 「暮らしと国防」結び付ける 中山氏
自衛隊配備 住民合意が優先 上地氏
8月17日に石垣市長選、24日には与那国町長選がそれぞれ投開票され、共に「保守系」候補が勝利した。石垣市では前市長の中山義隆氏が5期目の再選を果たした一方で、与那国町では、「保守系」でありながら、自衛隊の配備強化などに慎重姿勢を示す新人の上地常夫氏が現職を破り初当選した。国防の最前線に位置付けられる先島諸島の2市町長選挙の結果は、国が進める自衛隊の「南西シフト」などの防衛政策にも大きな影響を与える可能性があり、今後の両首長の動きに注目が集まりそうだ。(沖縄支局・川瀬裕也)
石垣市長選は、議会での不信任決議により失職した中山氏が再び市民の信任を問う「出直し選」となった。前回と同じ顔触れになったが、結果は中山氏が1万2923票を獲得し、新人の砥板芳行氏に1799票差をつけて5選を果たした。
中山氏は台湾北部・基隆との定期フェリー航路構想を物価高対策、物流多角化の切り札として掲げた。雇用創出・税収拡大を目指し大型リゾート開発も推進すると強調した。中国海警局の公船が周辺海域で連続航行を続ける尖閣諸島については、同市がこれまで行ってきた海洋調査を続ける方針を示し、「上陸許可を国に求めていく」と訴え、「暮らしと国防」を結び付ける戦略を示した。
一方の砥板氏は、市政の透明性を欠いたと中山氏を批判。フェリー構想の採算性やリゾート計画の環境影響に疑義を呈し、住民合意を重視する立場を強調した。公文書改ざん問題を「市政不信の象徴」と断じ、中山氏の「説明責任欠如」を最大の争点に据えた。また、中山市政が力を入れてきた、台湾有事を想定した九州への住民避難計画などについても、「市民の理解が得られていない」などと批判的な立場を取り、革新層の支持を仰いだが、一歩及ばなかった。
任期満了に伴う与那国町長選では、保守系元町議の新人・上地氏が557票を得て初当選。現職の糸数健一氏にわずか51票差で競り勝った。投票率は90・83%と極めて高く、島民の関心の高さを物語った。

同町長選最大の争点となったのは自衛隊配備の是非だ。与那国島にはすでに陸上・航空自衛隊が駐屯している。昨年、陸自の電子戦部隊が配備されるなど、国は部隊の配備強化や日米共同訓練の実施などを進めている。現職の糸数氏は「島の安全保障のために国と共に歩む」と積極推進を掲げ、「台湾有事への備えは不可欠」と訴えた。
これに対し、上地氏は「自衛隊の必要性は理解する」としつつも、「軍事増強は島民生活を脅かす」と、配備強化に対して慎重姿勢を打ち出した。訓練や装備の持ち込みに関しては「情報公開と住民合意が最優先」と強調し、医師不足や港湾整備など生活課題の解決を前面に掲げた。
革新系新人の田里千代基氏が出馬したことで、同町長選は前回(2021年)同様、三つどもえの構図となった。前回「保革共闘」を掲げ勝利した現職の糸数氏は、南西シフト全面支持の姿勢や、憲法9条改正への言及により革新支持層が離反し、結果的に反発票が上地氏に集まった格好だ。
上地氏は当選翌日の記者会見で、「南西シフト」について改めて慎重姿勢を示し、「自衛隊だけの島にはしたくない」などと語った。また日米共同訓練での輸送機オスプレイの飛来や、軍用車両の公道使用について「容認できない」とした。
上地氏の姿勢に対しては保守支持層から不安の声が聞こえる。与那国島に親戚が暮らしているという那覇市在住の男性は、「台湾有事が起これば最初に巻き込まれるのは与那国だ。いざというときに国防が手遅れになるのではないか」と不安を漏らした。台湾からわずか111㌔の距離にある「国境の島」の安全と生活のバランスをどう取るかの手腕が問われそうだ。
先島諸島で立て続けに実施された二つの選挙結果は、単純に「保守か革新か」という図式だけでは測れない。石垣では「尖閣の現実」と「暮らしの安定」を重視した保守的現実路線の中山氏が選ばれた。与那国では、自衛隊は「容認」するが、医療福祉など住民サービスを重視する穏健保守が勝利した。
石垣では避難計画の実動訓練や尖閣周辺での国への対応要求が引き続き進められるのに対し、与那国では日米共同訓練や部隊増強を具体化するに当たり、どこまで国と歩調を合わせられるかが焦点となる。台湾海峡を巡る緊張が続く中、「最前線の島々」の選択が日本全体の安全保障政策に直結することは必至だ。






