
沖縄県の祖国復帰から53年となる5月15日に合わせ、市民団体らが県内各地で「平和行進」や「県民大会」などを開催したが、18、19日には、陸上自衛隊那覇駐屯地前(那覇市)や勝連分屯地前(うるま市)などで、「日米安保=戦争同盟粉砕」「中国侵略戦争阻止」など過激なスローガンの反自衛隊デモが実施された。参加者の多くは極左過激派の中核派が動員されており、「市民の声」を強調してはいるが、その実態は市民の常識とは懸け離れた主張のオンパレードだった。(沖縄支局・川瀬裕也)
19日午後、那覇市の陸自那覇駐屯地前に集まった参加者らは、「歴史を改ざんし、沖縄戦を美化するなど絶対に許されない」などと訴え、「軍隊は住民を守らない。守らないどころか軍隊は住民を殺すんじゃないか」と登壇者が声を上げると、参加者は「そうだ!」と叫んだ。さらに、「(自衛隊は)再び沖縄県民を蹂躙(じゅうりん)して、中国への侵略戦争を準備している」などとも主張した。
「市民の声」を重視する演説が目立ったが、デモの参加者らが持参したのぼりや横断幕には、各地の「労組交流センター」や、「婦人民主クラブ全国協議会相模原支部」、「動労総連合会」など左翼組織ののぼりで埋め尽くされていた。
これらのデモに先立ち、17日に那覇市内で開かれた「『復帰』53年5・15沖縄集会」(主催=改憲・戦争阻止!大行進 沖縄)では、中核派系全学連前委員長の赤嶺知晃(ちあき)氏が、「沖縄は今や、米日帝国主義の中国侵略戦争の最前線に位置付けられ、『再びの沖縄戦』を強いられようとしている」と主張。「復帰闘争で沖縄の労働者民衆が求めた『基地のない平和な沖縄』を私たちの力で実現しよう」と呼び掛けた。中核派との関係が取り沙汰される洞口(ほらぐち)朋子杉並区議も決意表明し、18、19日の集会への参加を呼び掛けた。
19日に駐屯地前での抗議活動を見た浦添市在住の男性は、復帰や終戦の記念日に「沖縄がこのような連中の独り善がりの自己満足を発散する場所となっている」と憤った。「沖縄を政治利用し、勝手に哀れんだり、自分たちの価値観を地元を無視して押し付けるのをやめてほしい」と語った。
一方、玉城デニー知事も出席した、17日に北谷町(ちゃたんちょう)で開かれた「復帰53年5・15平和とくらしを守る県民大会」で、主催者を代表してあいさつした外間ひろみ同実行委員会共同代表は、「沖縄戦の教訓は『軍隊は住民を守らない』だ。若い世代が戦争をしない覚悟で行動している」と語った。
集会で採択された大会宣言では、自民党の西田昌司参院議員の「歴史の書き換え」発言や、陸自第15旅団のホームページに旧日本陸軍第32軍を指揮した牛島満中将の辞世の句が再掲載されたことなどを「歴史修正主義」と批判。「南西諸島は米軍と自衛隊の軍事要塞化へと変貌している」と主張し、「日本政府に対し、軍事増強では平和を実現させることは困難だと訴える」としている。
玉城氏は「忌まわしい戦争の記憶を風化させない。東アジアを再び戦場にしないなど、沖縄戦で得た教訓を正しく次世代に伝え、平和を希求する」と語ったが、平和を守るための組織である自衛隊を敵視するかのような言説が飛び交った会場には、違和感を覚える参加者もいた。