
沖縄県が米国に設置したワシントン事務所が営業実態のない株式会社として登録されていたことなどが発覚した問題を巡り、県議会(中川京貴議長)は3月28日の定例会本会議で、2025年度当初予算案から同事務所の運営費を全額削除した修正案を賛成多数で可決した。玉城デニー知事が審議のやり直しを求める「再議」を見送ったことで、同事務所の閉鎖が確定した。
(沖縄支局・川瀬裕也)
玉城知事が「再議」見送り
真相究明不十分の声も
ワシントン事務所は故翁長雄志前知事が15年、初当選時に設置し、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設反対に関する情報発信や、知事訪米時の手続き業務などを担ってきた。
ところが昨年、同事務所は県が100%出資する株式会社として登録されていた事実が発覚し、設立時に取得した株式が公有財産として登録されていなかった問題や、県が委託契約を結ぶ現地の弁護士が数カ月間音信不通になっているなどの問題が次々と明るみに出た。

昨年末からは、これらの問題を調査する県議会の調査特別委員会(百条委員会)が開かれ、歴代の同事務所長や当時の知事公室長らの参考人招致が行われてきた。しかし、株式会社の設立やビザ申請に関わる具体的な手続きを誰がどのように許可し、指示を出したかなど、責任の所在は未(いま)だ明確になっていない。
このような状態にもかかわらず県が2月、同事務所の運営費3900万円を含む一般会計当初予算案を議会に提出した。これに対し、自民など野党が猛反発し、予算案から同事務所運営費を削除するよう求め、議会は一時空転。議決を拒否し予算案を県に差し戻す「返付」の動議が賛成多数で可決されるなど、波乱の展開となった。
そのような中、3月28日の定例会本会議で、運営費を全額削除する修正案が、自民、公明、維新などの賛成多数で可決された。当初、玉城氏は審議のやり直しを図る「再議」に付すとみられていたが、弁護士らでつくる同問題の調査検証委員会が同日、「事務所設立手続きに複数の重大な瑕疵が存在し、正当性が担保できない」との報告書をまとめたことで、再議を見送った。
議会閉会後、玉城氏は報道陣の取材に応じ、「これまで丁寧な説明に努めてきたが、議会の理解をいただけなかったことは誠に残念」と悔しさをにじませた。その上で、「県の調査検証委の厳しい指摘や、再議に付した場合は暫定予算になる可能性があり、経済や県民生活に多大な影響があることを踏まえ、再議に付さない判断をした」と述べ、同事務所を閉鎖する考えを示した。
一方で、「沖縄の多重で多大な基地負担の軽減を図っていくためには必要な活動だ」と、同事務所の必要性について従来通りの主張をした上で、「新たな体制でワシントン駐在が再スタートできるようしっかり取り組んでいきたい」と、問題点を解消した上での再開に意欲を示した。
同問題を当初から追及し、閉鎖に向けた署名活動や街宣活動などを行ってきた「ワシントン事務所の閉鎖を求める沖縄県民の会」(川満聡代表)は3月27日、「沖縄県ワシントン事務所の即時閉鎖を求める陳情」を県と県議会に提出しており、同日開いた記者会見で川満氏は、「誰も責任を取らないまま来年度の予算として約4000万円を計上したことは、厚顔無恥としか思えない」と強く批判していた。
県民の会事務局長を務める、一般社団法人日本沖縄政策研究フォーラムの仲村覚理事長は、閉鎖が決まったことについて、「いったん税金の無駄を止めることができたことは良かった」と評価した一方で、「過去9年間にわたり、違法状態が続いていたことに対する真相究明は全くなされていない」と問題視し、「今後県議会や百条委員会で明らかにされていくべきだ」と語った。
ワシントン事務所の閉鎖に伴い、数カ月以内に、現地の法人閉鎖や、賃貸契約の整理、職員の撤退などの手続きが進められる見通しだ。これにかかる予算は予備費から捻出されるとみられている。同事務所にはこれまで、毎年約1億円もの税金が投入され続けてきたことからも、今後も県民からの厳しい責任追及は続きそうだ。