
脆弱(ぜいじゃく)性発見能力に優れる一方で悪用されれば極めて危険な新興AI「クロード・ミュトス」(米アンソロピック社)。各国政府が警戒感を強める中、日本でも高市早苗首相が緊急対策を指示し、松本尚デジタル相主導で関係省庁会議が始まった。
国家情報会議設置法が参院で成立し、国家情報会議と国家情報局(700人規模)が7月にも本格稼働すれば、こうした新たな脅威への政府全体の情報収集・分析・危機対応力が試されることになる。
現在は国家サイバー統括室やデジタル庁、金融庁などが個別に動いているが、国家情報局が各省庁の脅威情報を一元的に集約・俯瞰(ふかん)し、首相への直接報告ルートの強化も期待される。
情報主権や政府・国民の信頼関係という価値観を前提に、新体制がどれだけ実効的に機能するかが問われる。特に注目されるのは、司令塔機能の実力と民主的統制のあり方だ。
衆院内閣委員会・参考人質疑では、この点について実務経験者から率直な指摘が相次いだ。長年情報行政のトップを務めた三谷秀史・元内閣情報官は、従来の体制で最も深刻だった問題として「政治のリーダーシップの欠如」を挙げた。
各省庁の省益優先の文化や相互不信を背景に、従来の「連絡調整」機能には限界があったと実体験を基に告白した上で、国家情報局による「総合調整」機能への格上げに期待を示した。司令塔としての実力をいかんなく発揮するためには、首相の強いリーダーシップと、外務・防衛・警察などを含めたインテリジェンス・コミュニティー全体の一体感醸成が不可欠となる。
情報セキュリティ大学院大学の小林良樹教授は、米国家情報長官室(ODNI)などの先進事例を引用しつつ、「民主的統制は手段であって目的化してはならない」と述べた。情報収集・分析・成果の還元から成るインテリジェンスの「PDCA(計画・実行・検証・改善)サイクル」を回すことで、情報活動の質を高め、結果として国民の信頼を増進させると指摘した。
さらに米中央情報局(CIA)のレオン・パネッタ元長官の言葉を借り、「インテリジェンスの役割は情報の不確実性を正直に可視化し、政策判断に伴うリスクを明確に提示することにある」と述べ、情報機関は事実とリスクを提示するにとどめ、最終判断と責任は政治が負うべきだとの原則を改めて示した。
政府は情報活動の国会への説明責任について、現時点では公文書管理法への準拠を基本姿勢としている。一定の枠組みから始め、秘匿性とのバランスや実効的な国会統制について、今後の運用で具体的な工夫が求められよう。
秘匿性を守りつつ、第三者による事後検証委員会の設置など、透明性を確保する仕組みづくりは必須だろう。米英豪の成功事例が示すように、情報機関の独立性と政治的中立性を堅持しながら、国民の理解と信頼を得られる運用が持続可能な国力の強化につながる。
国際情勢や先端技術を巡り目に見えぬ情報戦が激化する中、政府には実務経験者や諸外国の知見を十分に活(い)かし、価値観を守りながら実効性ある司令塔を構築する強い実行力が求められている。
新体制の成否を決するのは「信頼」だ。国民との信頼、省庁間の信頼、そして首相と情報トップの信頼――この三層の信頼を築き上げられるかが、日本が情報戦に勝つ日を現実とする鍵となろう。優秀な実務人材の確保・再教育と、倫理観を備えた専門人材の養成がその土台となることは言うまでもない。(司馬俊太)
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