トップ国内【連載】日本が情報戦に勝つ日へ(2)守るべき価値観を国民に喚起

【連載】日本が情報戦に勝つ日へ(2)守るべき価値観を国民に喚起

 トランプ米大統領が中国を訪問し、習近平国家主席との首脳会談に臨んだ際、ルビオ国務長官ら政権閣僚に加え、米電気自動車(EV)大手テスラ最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏、米半導体大手エヌビディアCEOのジェンスン・フアン氏など産業界の大物らも同行した。

 この訪問で注目されたのは、米側が高度な情報セキュリティー意識を発揮した点である。政財界の重要人物らが、通常使用するパソコン(PC)や携帯端末を米国に残し、中国滞在中に現地で提供された機器や土産品を持ち帰らないなど、機微情報の漏洩(ろうえい)防止に細心の注意を払ったもようが伝えられた。

 この出来事は「情報主権」――国家が重要な情報やデータを外国に依存せず、自ら管理・制御する権利と能力――を国家レベルで象徴的に示すものとなった。

 参政党の川裕一郎衆院議員は、国家情報会議設置法案を巡る質疑で、この情報主権について強調した。1970年代に始まり今なお、未解決の北朝鮮による邦人拉致問題を、日本政府の主体性を欠いた脆弱(ぜいじゃく)なインテリジェンス体制が招いた最大の失敗例と位置付け、情報力強化への歴史的教訓にすべきだと主張した。

 その上で、AIプラットフォーム、クラウド、データセンターなど情報インフラの海外依存度が高い日本の実情を指摘。データ主権の確立とハード面の国産化を積極的に進めるべきだと訴えた。米代表団の徹底した情報管理の姿勢は、川氏の指摘に強い説得力を与えた。

 一方、高市早苗首相は国会で、インテリジェンス政策の原点は「国民の安全と国益の確保」にあると改めて説明した。新体制では、首相を議長とする国家情報会議と国家情報局により、各省庁の縦割りを打破し、司令塔機能を付与することで、戦略的な情報収集・分析を可能にすると強調した。

 国民民主党の橋本幹彦衆院議員は、こうした機能強化の大前提として「政府と国民との信頼関係」という価値観を正面から提起した。国家による情報活動が国民の自由や人権を侵害しては本末転倒であり、記録の保存や将来における検証可能性、国会への適時適切な報告など、民主的統制の仕組みをどう構築するかが問われるとただした。

 国家情報会議設置法案の衆院通過に際して、野党各党と与党内慎重派の懸念を反映し、「個人情報やプライバシーが侵害されない配慮」を付帯決議に盛り込んだ。

 過去、85年に外国勢力から国家機密を守る「スパイ防止法」案が国会に上程された際、野党(社会党など)、大手マスメディア、日本弁護士連合会などは「言論・表現の自由の侵害」「国民監視の拡大」を強く主張して猛烈な反対キャンペーンを展開し、結局廃案に追い込んだ。保守系メディアが当時から指摘していた通り、この反対運動は結果として、日本のインテリジェンス機能の脆弱性を長く固定化させる要因となった。 

 案の定その後、中国をはじめとする外国勢力による激しい情報戦・先端技術流出が深刻化し、日本は多大な代償を支払うこととなった。だが、こうした苦い経験を40年以上経た今日、その廃案すらも結果としてインテリジェンス政策の必要性に対する国民の認識を育む肥やしとなったと言える。

 国家情報会議設置法を巡る国会論戦は、単なる組織改革の議論を超えて、情報主権の確立と、政府・国民間の信頼関係という二つの価値観を広く問い直す機会となった。行政組織改革への議論を通じて、国民全体の安全保障意識・国防意識の向上も着実に喚起されている。

 ベースとなる価値観を守り育てながら、インテリジェンス組織の新体制が実際に機能するよう、実務経験者や諸外国の知見を積極的に取り入れ、政府には実効性ある司令塔の構築と、国民の信頼に足る運用が強く求められる。(司馬俊太)

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