高市早苗政権は、国家安全保障政策の一環としてインテリジェンス(情報収集・分析)機能の強化を図っている。保守系の学識経験者らでつくる「日本の真の独立を目指す有識者会議(ECAJTI)」はこのほど、シンポジウムを東京都内で開き、軍事専門家らは対外情報機関を創設することや独自の核抑止力を持つことが、危機に直面した日本の安全保障には不可欠だと強調した。(豊田 剛)

シンポジウム冒頭、主催者を代表し、ECAJTI創設者の山下英次・大阪市立大学名誉教授は、「日本が伝統的にインテリジェンスの対象としてきたのは、いずれも核保有国のロシア、中国、北朝鮮」と指摘。核戦略と対外情報機関の設立をセットで考える必要があると訴えた。
基調講演は、元航空幕僚長の外薗(ほかぞの)健一朗氏と日本安全保障フォーラム会長で元陸将補の矢野義昭氏が行った。

日本の情報は「欠陥品」 外薗健一朗氏
防衛省情報本部長の勤務歴がある外薗氏は、現在の日本の情報(インテリジェンス)体制の脆弱(ぜいじゃく)性に警鐘を鳴らし、対外情報機関の創設を訴えた。
インテリジェンス活動は、①対象国の動静を探る「諜報(ちょうほう)」②外国勢力によるスパイ活動を防ぐ「防諜(ぼうちょう)」③対象国を自国の意図する方向に誘導する「謀略」――の3本柱から成り立つ。
外薗氏によると、日本ではそのうち防諜と謀略の機能が「実質ゼロ」であり、諜報においても人間を介して情報を取得する「ヒューミント」(人的情報活動)の機能を有していない。日本が取得できる情報は、「シギント」(自衛隊の電波情報)や「イミント」(内閣衛星情報センターの画像情報)、外務省、防衛省、警察庁など各省庁が把握している情報に限定される。世界レベルで見れば「欠陥商品」しか提供できていないのが実態だという。
「日本は独自の情報収集能力が不足しているため、日米間では対等な情報の交換ができないだけでなく、受け取った情報の真偽の確認を独自に行えない」と問題視。「一次情報(生の情報)」を取得できる体制の構築が急務になると訴えた。
専門家の教育をどうするかが問われている。「情報の質を最終的に決めるのは〝人〟」と訴える外薗氏は、「現状の教育機関は自衛隊が担っており、警察、公安調査庁でも実施しているが、法的な限界がある。リーダーを育成・管理する独自のシステム構築が求められる」と述べた。
新しい対外情報機関をつくるに当たり、先の大戦時に情報要員を輩出した「陸軍中野学校」の精神を生かした情報要員養成機関の設立は欠かせないと強調した。
「対外情報機関の創設やスパイ防止法の制定は、単なる組織改編や新法導入で終わってはいけない。日本の国益と未来を自らの手で守り抜くための『国家の再構築』であり、『インテリジェンスは国家の生存戦略である』という認識を国民が持ち続けるべきだ」
こう呼び掛けて講演を締めくくった。

原子力潜水艦が最適 矢野義昭氏
矢野氏は、日本の核戦略のあるべき姿をテーマに講演した。
「核戦争に勝者はいないことはどの国も分かっている。国家生存のための最も基本となるのは核であり、大国は安全保障の骨幹を他国に依存しない」
矢野氏はこう述べた上で、通常戦力では抑止・対処力に限界があるため、国を守るためには最終的に「核抑止能力を持つしかない」「核を保有することが最も信頼できる自衛だ」と強調した。
世界の核抑止力を比較すると、現状、米国はロシアに対し劣勢だという。中国は2030年ごろには1000発、35年ごろには1500発程度の核弾頭を保有する見通しだ。核戦力で中国が5年以内に米露に追い付くという見方もある。
「米国の核の傘は北東アジアとは連動しない。核シェアリングは核の傘の信用向上にはなり得ず、日本は米国に依存できない。それでも、日本は米国の約束を信じ、隷属(れいぞく)的地位に縛られている」(矢野氏)
四方を海に囲まれている日本の特性を生かすには、隠密性に優れた弾道ミサイル原子力搭載潜水艦(SSBN)を持つことが最適だと矢野氏は主張。核保有は、①「抑止」②他国に依存しない「自立」③仇(かたき)を取ってほしいという被爆者の「鎮魂」の思い――という目的を果たすために必要だと結論付けた。
松田学参院議員(参政党)はビデオ・メッセージを寄せた。「超大国による力の秩序の時代に入っており、露中朝が協力関係を強めると米国一国だけでは対抗できなくなる」と危機感を募らせた上で、日米同盟を強化するのはもちろん、米国が極東から手を引き始める場合に備えたプランを考えないといけないと訴えた。






