高市早苗首相の台湾有事に対する「存立危機事態」発言が韓国にも大きな波紋を及ぼしている。反発した中国が「訪日ツアー自粛」などの報復措置を取り、ちょうど旧正月を迎え、連休の海外旅行で日本に行けなくなった中国人が大挙して韓国を訪問し“反射利益”を得ているそうだ。
だが「波紋」とはもちろんその次元の話ではない。中国の対日挑発が軍事レベルにまで及んで、日本の南西海域をかすめる形で大規模な空中訓練を行った。それを見て韓国は「武力衝突直前まで激化した」と警戒感を強め、一部では「21世紀版日清戦争が勃発する可能性がある」とまで心配しているというのだ。
日清戦争は朝鮮半島を巡って日本と清が軍事衝突した戦争で、下関条約(1895年)では「朝鮮の(清からの)独立」とともに「台湾の(日本への)割譲」などが決められた。こうした日中の歴史的因縁からすれば、韓国も否(いや)応なく引き込まれる「21世紀版」が勃発すると警戒するのも無理はない。
ただし基本的に韓国政府は「台湾有事の際、軍事介入の義務はない」として、台湾海峡問題には一線を引いている。しかも、中国は最大の貿易相手国だ。韓中関係の安定には最も神経を使っている。2016年に高高度防衛ミサイル(THAAD)配備決定に反発した中国は、韓国の中国内での諸活動を制限した。この「限韓令」は約9年もの間続いた。だから韓国は「台湾有事」に関わって、その二の舞いを演じることは避けたいわけだ。
とはいえ、トランプ米政府は西半球の防衛には域内の諸国が役割を果たすことを促した国家安全保障戦略(NSS)を発表。韓国に対し相応の防衛費増額を求めている。台湾有事では何をどこまで要求されるか分からない。韓国でその内容とサポート範囲のレッドラインに関する検討が出てくるのは当然の流れである。
東亜日報社が出す総合月刊誌新東亜(2月号)は中国専門家として国防外交協会中国センター長を務める趙顕圭(チョヒョンギュ)信韓大教授にインタビューした。趙教授は「高市首相の発言は支持者に向けたもの」で「実際には自衛隊が派遣されることはないだろう」として韓国の過剰な反応をたしなめる。
さらに米国は「回避戦略を取る」と予想。トランプ米政府は米中首脳会談の日程を明らかにしているが、これは「日中の争いに介入しないという意思表示だ」と分析する。トランプ大統領の「米国第一外交を勘案すると予想される水準」である。
一方で、言われている中国の「2027年台湾侵攻」説について、趙教授は「実際、武力侵攻は難しい」とし、米戦略国際問題研究所(CSIS)のシミュレーションを引用し、「現代軍事理論では、上陸戦での攻撃対防御兵力比率は15対1あるいは20対1にもなり、これでようやく攻撃側の勝機があると分析される」として、「台湾海峡渡海過程で上陸軍70%が撃滅され、艦艇の40%が失われて上陸作戦は失敗するという結論が出た」と指摘した。
それにこの年は「習近平国家主席の共産党総書記4選があるかどうかを決定する年であり、人民解放軍創軍100周年という象徴性を持つ年だ。翌28年には台湾総統・立法院同時選挙という変数もある」ことを挙げてもいる。
台湾有事で米国が韓国に要求してくるものとして、趙教授は、①人道的支援や対中経済制裁への参加②在韓米軍への物資・燃料支援や海上輸送路の護衛③領空・領海の通過許可や日米韓共同作戦への参加――を挙げ、「いずれも受容可能な範囲ではあるが、中国による経済的・非経済的な報復は覚悟しなければならない。しかし、何よりも先制的な対応が重要だ」と提言している。
そして韓国が「韓米同盟強化と中国リスクをバランスよく管理する場合、域内の安保主体として跳躍できる」と趙教授は述べる。だいぶ楽観的というより楽天的だ。台湾有事では日本と並んで韓国も「最大被害国」になると言われている。予想される「同盟国の義務」とリスクを勘案し、同時に貿易問題なども対米交渉で「パッケージとしてディールしなければならない」と提案しているところは如何(いか)にも韓国らしいしたたかさである。






