

兵庫8区(尼崎市)は、公明党が長年議席を維持してきた「牙城」だ。尼崎市議会では公明が最大会派で、支持母体の宗教団体・創価学会の影響が大きい。公明が自民との連立政権から離脱し、立憲民主党と新党「中道改革連合」を結成したことに伴い、前職で公明出身の中道候補は比例にまわった。現在の区割りになって初めて公明候補が不在の選挙になり、構図が大きく変わった。
自民公認の青山繁晴は、東京の自宅を訪れた県連幹部の「これまで尼崎市には本当の保守の政治家がいなくて、ずっと苦しんできた」という言葉が胸に刺さり、参院議員からの鞍(くら)替えを決意。衆院が解散する5日前に立候補が決まった。比例での重複立候補をせずに、背水の陣で臨む。
公明と長年協力関係にあった自民としては30年ぶりの独自候補となるが、青山は第一声で「連立を組んでいても正々堂々と(公明候補と)競うべきだった」とこれまでの党の姿勢を批判。尼崎市から北朝鮮に拉致された可能性が濃厚とされる特定失踪者についても触れ、「尼崎と国政の問題は一体だ」と訴えた。
街頭演説で最初のうちは人がまばらだったものの、知名度のある青山に気付くと足を止めて聞く人が1人また1人と増えていく。商店街を練り歩く際には支持者と言葉を交わし、写真撮影に応じるなど、人気ぶりがうかがわれる。
知名度で勝る青山を追う一番手は、中道の弘川欣絵(よしえ)だ。日本最大の労働組合・連合と創価学会という二つの大きな組織票で議席を狙う。争点になっている物価高対策では、「生活者ファースト」の政策を全面に押し出す。難民支援団体に参加し、認定支援や生活支援など精力的に活動してきた経験から、高市政権の外国人政策への警戒感が強い。
“牙城”が脅かされていることへの危機感を示すように、選挙戦初日には元公明で共同代表の斉藤鉄夫が阪神尼崎駅前に駆け付け応援演説を行った。学会員らが多く集まり、しきりに拍手が送られるなど盛り上がった。公明の参院議員や前職らも次々と応援演説で後押しし、「比例は中道、8区は弘川」と学会員への浸透を図っている。ただ、立民は公明と長年、敵対関係にあったことも事実で、公明票がそのまま弘川に流れるかどうかを疑問視する声もある。
維新からは前職の徳安淳子が立候補。前回衆院選で公明候補に約1万票差で敗れたが、県議として5期務めた知名度を活かして比例復活を果たした。与党対決に挑む徳安は、「自民だけでは前に進まないことを維新が中から変えていきたい」と意気込み、小選挙区での当選を目指す。
徳安は、国会議員になって生活拠点が東京に移っても地元の消防署の内覧会や盆踊りへ足を運ぶなど、足しげく地元に戻った。選挙戦では「私が尼崎を一番知っている候補者」と地域密着をアピール。維新支持層以外の無党派層への浸透がカギとなる。
れいわ新選組の長谷川羽衣子は街頭演説だけでなく、ショート動画などSNSを多用し、自身の主張を頻繁に投稿。支持拡大を目指す。環境・経済問題を得意とする論客でもあり、「食料品の消費税ゼロより、現金給付を一律で出すことの方が再分配につながる」と訴えている。
共産党は新人の坂東正恵を擁立。「大企業・大株主に利益に応じた税の負担を求めるべき」だと主張している。(敬称略)
(衆院選取材班)
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