
安倍晋三元首相が奈良市で暗殺された事件で、奈良県警は山上徹也被告の単独犯とみて捜査を進めた。しかし単独犯を疑わせる幾つもの点が浮上し、大手メディア以外、主にネット上では、「スナイパー」説も浮上した。
今回の裁判で検察側と弁護側は事実関係では争わず、争点は量刑となると公判開始前から報じられてきた。真相解明は期待薄だったが、事実、単独犯説への疑問に答えるものとはならなかった。
初公判で検察側が述べた起訴内容について、山上被告は「すべて事実です。私がしたことに間違いありません」と認めた。単独犯を疑わせるのは、銃撃の角度と弾道、致命弾が見つからないことなどだが、その後の目撃者、警察官、解剖医らの証人尋問は、それらを一つ一つ反証していく過程にも見えた。しかし、それらは一応の説明とはなっているものの、十分納得のいくものではない。
特に安倍氏の救命治療に当たった奈良県立医大付属病院の福島英賢医師の発表した所見と、司法解剖を行った奈良県警の所見が大きくことなることへの疑問は残ったままだ。福島医師は事件当日の記者会見で、頸部(けいぶ)から入った弾丸が心臓や大血管を損傷し、心臓(心室)には「大きな穴」があったと述べたのに対し、奈良県警は「左右鎖骨下動脈の損傷による失血死」と発表し、心臓の損傷には触れなかった。
これに疑問を抱いた参院議員の青山繁晴氏が警察幹部に問いただしたところ、心臓に損傷があったことを認めた上で、それは銃創ではなく心臓マッサージをした際の圧迫で内部組織が破壊される「挫滅」によるものと説明したことを青山氏が自身のユーチューブ番組で明かしている。しかし、この「挫滅」の説明に懐疑的な医師は少なくない。
公判でこの重大な疑問が解かれることが期待されたが、解剖医のみが証言し、福島医師の証言はなく、完全に素通りされた。
警察官、解剖医への証人尋問は、スナイパー説を意識したものだったが、それが成り立たず、陰謀論にすぎないことが十分に証明されたとは言えない。それにスナイパーなど存在せず、山上被告の放った銃弾が致命弾であったとしても、被告に協力した者がいた可能性は否定できない。
本紙の過去の連載(2022年12月17日付)で報じたように、被告はジャーナリスト米本和弘氏のブログに「我、一命を賭して全ての統一教会に関わる者の解放者とならん」と宣言した投稿のハンドル名「まだ足りない」に、メールアドレスを埋め込んでいた。コメント欄で一度だけ自身のアドレスを公開したのは、単なる手違いだった可能性もある。しかし、そのアドレスがスイスのIT企業が運営する秘匿性の高いプロトンメール(Proton Mail)であることから、被告がネット上で協力者を求め秘密裏に交渉しようとしていたことも否定できない。
ほかにも、事件発生時に撮影された複数の動画には、被告が現場に到着して間もなく、その右隣にやって来て、安倍氏の演説を聞くのではなくスマートフォンを操作しだし、山上被告が道路に出て安倍氏に向かって銃撃した時、驚くのでもなく素早くその場から立ち去ろうとし、私服の警察官とみられる人物と衝突し転倒した若い女性などが記録されている。これから何が起こるかを事前に知っていたとしか思えない行動を取った人物の存在など、山上単独犯説を疑わせる不審点に、裁判は答えるどころか触れようともしない。「真相」の解明なくして正しい裁きはあり得ない。
(世界日報特別取材班)







