
与野党を超えてスパイ防止法制定の取り組みが始まった背景や同法制定の意義について、中国人スパイに詳しい元警視庁北京語通訳捜査官で作家の坂東忠信氏に聞いた。(スパイ防止法取材班)
――今年に入ってスパイ防止法制定の機運が一気に醸成された。
参政党のスローガンにある「日本人ファースト」はこれまでマスコミに取り上げられなかったが、有権者は共感し、日本を大切にしようという思いを投票の形で示した。封じられていた政治に対する有権者各人の思いを確かめ合い共感できる環境が一気に作られた。
高市早苗首相にも当然そういう思いはあったはずだ。スパイ防止関連法案をしっかり取り上げる必要があることが共通認識となった以上、取り上げざるを得ない。ただ、自民党だけでは解決できないだろう。米国に忖度(そんたく)のない「日本人ファースト」の参政党の尖(とが)った政策に期待したい。
世界の状況を見てもスパイ防止法制定は当然の話で、20年以上前にできていなければならなかった。警視庁公安部の職員は、スパイ防止法という法的根拠がない上に偏重した人権思想など超えるべきハードルは高い。それでも、スパイをその活動から特定し、別件逮捕や身柄の確保で公にすることで、スパイの職業生命を終わらせる。そういう意味でも、他国の防諜(ぼうちょう)(スパイ防止)・諜報機関に負けない結果を出すほどに、日本の警察公安部門は能力を磨いているが、根拠法の不在は致命的欠陥だ。
――なぜ自民はこれまでスパイ防止法を成立させられなかったか。
旧民主党(立憲民主党の前身)はかつて、右から左までいてバランスの良さが売りだった。しかし、2009年8月の政権奪取以降、保守派議員は次々と排除され、今では柔らかい左翼政党になった。
今の自民党は旧民主党と似たような経路をたどっている。経団連や企業の社長などさまざまな団体の組織票が頼りだ。そんな中で党員票が高市政権を生み出したが、経営者としては安い外国人労働者が欲しい。高市総理がいくら保守派でも、参政党が主張するように外国人の入国規制をしたら、企業の組織票が離れていく。
また、安倍政権時代に「移民政策は取らない」ことが前提とされているため、自民党は移民問題が多発しても「移民」という言葉を使えない。移民問題を提起すれば、移民政策を実施していたことになるから、「外国人労働者」と言っている。
ただ、スパイとして使いやすいのは、一番組織化している留学生だ。世界的にはその土地に定着して住む者は留学生を含め「移民」であり、表現上「外国人労働者」に的を絞るしかない現状では、スパイ防止以前に外国人政策にも限界がある。
――防諜で世界と連携できるか。
G7の中でスパイ防止法がないのは日本だけだ。これでは自由主義陣営と情報の足並みが揃(そろ)わない。世界が諜報・防諜機関を持って連携しても、日本だけ組織を持ちながら防諜の法的根拠がなければ、日本から漏れるため、連携と協調が必要な活動では、日本にどこまで話をし、信用できるか分からない。仲間だと思っていてもすぐ隣にスパイがいる可能性があるから情報を共有できなくなる。
「ファイブアイズ」(米、英、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国による諜報情報共有の枠組み)に日本はなぜ入らないのかという議論があるが、今の段階でその枠組みに誘われること自体が危ない。情報戦における現段階での日本の価値は、せいぜい複数の偽情報を流して、どう流れてどの組織が反応するか観察するための「噛(か)ませ犬」程度。それでは本当の仲間にはなれない。
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