
4日、「スパイ防止法」制定を目指すシンポジウム(主催・同シンポジウム実行委員会)が都内で開かれ、憲法学者の小林節慶応大学名誉教授が基調講演を行った。以下はその要旨。
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スパイ防止法が制定されるということは、主権者たる国民がその覚悟をしたということだが、その覚悟が醸成されつつあるならば大変喜ばしいことだ。
世界の自由民主主義陣営を代表する米英仏独、専制主義的な国家のロシアと中国。これらどの国にもスパイ防止法がある。しかし、日本にはない。鍵になるような情報を政府から盗む行為がスパイの本質。今はこれに対する法律がないし、その基になる国防意識が主権者国民にないことが問題だ。
1985年に自民党議員らがスパイ防止法案を出したが、廃案になり、以来40年もうまくいかなかった。この国の独立は譲らない、第二の香港・チベットになりたくないという覚悟、国防意識、あるいは独立の気概がわれわれの中になかったと分析できよう。
さらに、日本の政治権力者が信用されていないことが挙げられる。参政党が急にパッと出てきて大きくなったのも、既存の政治家が与野党問わず主権者国民に愛想を尽かされたことの表れだと思う。
そういう意味で、政治・権力は信用されていない。(北朝鮮による)拉致被害者を不用意に生んだ政治権力者は「法律がなかったから起きた」と弁明するが、実際は政治家の覚悟がなかったからだ。
米中などではスパイ防止法に違反すれば死刑になる。そんな恐ろしいものを、今の政治権力に与えていいのかという不安が中立的な国民の中にあると思う。ここも超えなければならないハードルだ。
憲法9条の問題がある。憲法9条は、戦争で負けた国が詫(わ)び状文として書かされたもの。ポツダム宣言を受諾することによって日本は「撃ち方やめ」にしてもらった。戦争に負けた以上、この憲法を受け入れざるを得なかった。
だから、自民党の憲法改正案は、侵略戦争はしない代わりに、自衛という名で戦争をする法的資格と道具を持てるようにする、日本国憲法の欠点を埋めようというものだった。これは標準的な国際基準である。
古典的なスパイ防止法の反対議論を整理してみると、憲法9条がある以上、日本は戦争に関わる「スパイ」などあり得ない。だから、国防のためのスパイ防止という概念自体が憲法9条違反であるという。これでは話が噛(か)み合わない。
もう一つ、国家が保有する情報は全て主権者国民のものという主張がある。それは、国民に対して公開されなければならず、そういう意味で国家機密など存在しないという考えだ。
一部の国民が情報を盗んで他国に売り、他国からの侵略を招き、国民を不幸にしていいわけではない。国から情報を盗み取って外国に運ぶことに対して死刑を宣告するのは、世界では当たり前のことだ。
台湾有事の際に日米が全力で支援するのは中国が最も嫌がる。一方で、有事の際に静観したら中国が出て来やすくなる。政治情勢として、中国は焦ってきている。内部的にも問題が出てきている中で、台湾の問題に決着をつけようとしている。こういう時に、スパイとは何かという本質が分かりやすくなる。
「日本は絶対に中国の属国にならない」「北京政府にしてやられた香港の二の舞いは御免だ」「台湾にもそうさせない、ましてや私たちも絶対にならない」と意識することが大切だ。
(スパイ防止法取材班)
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