トップ国内【連載】スパイ防止法制定―公約化される背景 (6)中国「軍民融合」で情報獲得

【連載】スパイ防止法制定―公約化される背景 (6)中国「軍民融合」で情報獲得

2022年10月23日、北京の人民大会堂で開催された共産党第20回大会で手を振る習近平共産党総書記(国家主席)(AFP時事)

 中国の情報活動は、著しい経済成長、増大一途の軍拡と表裏一体で脅威を増している。冷戦時代に「韜光養晦(とうこうようかい)」(隠して能力を養い外に出さない)戦略を取り、日米はじめ先進国(G7)とともに対ソ連包囲網に加勢した。しかし、ソ連が崩壊し、ポスト冷戦期に入ると着々と軍拡を進め、海洋進出など覇権主義へと舵(かじ)を切った。

 習近平氏が2012年11月に共産党総書記に就任(13年3月、国家主席就任)すると、その動きは加速する。習氏は「中華民族の偉大な復興」を掲げ、巨大経済圏構想「一帯一路」を打ち出し、15年には第12次5カ年計画(11~15年)に盛り込まれた「軍民融合」を国家戦略として採用した。

 防衛白書24年版は軍民融合について、「緊急事態を念頭に置いた従来の国防動員体制の整備に加え、緊急事態に限られない平素からの民間資源の軍事利用や、軍事技術の民間転用などを推進するもの」と解説。「軍事利用が可能な先端技術の開発・獲得にも積極的に取り組んでいる」と指摘した。

 この際、懸念されるのが中国のスパイ活動だ。警察白書25年版は、「目的を偽って機微情報を収集したり、先端技術保有企業、防衛関連企業、研究機関等に対する研究者、技術者、留学生等の派遣、技術移転の働き掛け等を行ったりするなど、巧妙かつ多様な手段でさまざまな情報収集活動を行っているほか、政財官学等の関係者に対して積極的に働き掛けを行っているものとみられる」と警戒した。

 米国では国家防諜(ぼうちょう)安全保障センターが「外国の情報機関、特に中国は、現職および元米政府職員を、コンサル会社、企業の人材紹介業者、シンクタンク、その他の団体に成り済まして、SNSや専門的なネットワーク上で勧誘しようとしている」と警告文を発した。

 わが国では23年に、国立研究開発法人「産業技術総合研究所」の中国籍研究員が営業秘密の研究データを漏らしたことが発覚。20年には積水化学工業の元社員が特殊技術を中国企業側に伝える事件も起きた。

 一方、軍事機密も脅かされている。07年4月に神奈川県横須賀市で起きたイージス護衛艦情報漏洩(ろうえい)事件では、情報を持ち出した護衛艦「しらね」乗組員の2等海曹(当時33歳)の妻が中国籍の女性(当時33歳)だった。軍事評論家の福山隆氏は「普通の人でも嫁不足で、自衛隊はさらに結婚の機会が少ないから、日本人以外と一緒になるものが少なくない」と懸念する。妻となった中国人女性は05年に偽造旅券で入国し不法滞在しており、ハニートラップが疑われた事件だった。女性は入管難民法違反容疑で逮捕され、家宅捜査でイージス艦の機密情報を含む800㌻に及ぶ大量のデータが押収された。

 わが国にスパイ罪はない上、2曹は中国への情報漏洩を否定。事件による論議の焦点は、日米安保体制における機密情報管理の甘さに移る。第1次安倍政権だった当時、安倍晋三首相は「防止策を考えていかないといけない」と表明した。

 押収されたデータには2曹にアクセス権のない情報も含まれ、結果的に事件に関係した20人の隊員が処分された。このうち海自プログラム業務隊の3等海佐が日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法違反で懲役2年6カ月執行猶予4年の有罪判決を受けている。

 イージス・システムは優れた防空戦闘を可能にする先端システムで、米国が開発したものだ。事件には、米国の軍事機密が管理の甘い同盟国日本で第3国に流出する蓋然(がいぜん)性があり、スパイ罪に厳格な米国側から見ると執行猶予付き有罪の量刑は軽い。

 米国は日本の情報管理体制に不信感を持ち、民主党政権の鳩山由紀夫内閣当時の10年に「情報保全についての日米協議」を創設。13年、第2次安倍政権で特定秘密保護法が制定された。

(スパイ防止法取材班)

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