トップ国内【NEWSクローズ・アップ】AI活用で進むクマ対策 無線や予測マップで遭遇回避

【NEWSクローズ・アップ】AI活用で進むクマ対策 無線や予測マップで遭遇回避

石川県金沢市周辺を拡大したクマのリスクマップ。白い点は過去7年間にクマが出没した場所(日本気象提供)

 日本国内で今年、クマによる被害者数が過去最悪を記録した。相次ぐクマ被害を抑えようと、最先端技術である人工知能(AI)を活用した取り組みが各地で進められている。(石井孝秀)

 富山県は急増している市街地へのクマ出没対策として、2021年から自動撮影カメラとAI技術を使った「Bアラート」を導入した。同県のクマによる人身被害は深刻な課題で、11月6日現在、富山市だけでも年間のクマ目撃情報が322件に上る。10月23日には市内でクマ1頭が発見され、住宅敷地内に逃げ込んだことから、猟友会員によって駆除された。県内全体だと、10月下旬からクマによる襲撃が3件立て続けに発生し、70代女性が顔面を骨折したケースも報告されている。

 「Bアラート」は、赤外線で反応するカメラを木の上などに設置し、クマの姿が映っている画像だけをAIが検出した上で、関係各所へ自動的に通知を送るというシステムだ。県内全体で89台、富山市内だけで20台設置され、クマの通り道や過去の出没地点などを監視している。

 導入前は1時間以上必要だったクマ出没への初動対応が、システムの導入後は10分ほどに短縮されるなど迅速化に成功。クマ以外のシカやイノシシ、サルといった動物への応用も可能で、ほかの地域への展開も期待できる。

クマのはく製を使用して行われた、AIカメラと防災無線の自動連携試験(ほくつう提供)

 富山県は今年3月、クマ対策が評価され、デジタルを活用した地方公共団体などの優れた取り組みを表彰する「Digi田(デジでん)甲子園」(内閣官房主催)で、地方公共団体部門の内閣総理大臣賞を受賞した。

 さらに今年8月からは、防災無線との自動連携システムが構築された。AIカメラを開発した「ほくつう」(石川県金沢市)によると、これまでは通報を受けた後、直接現場を確認してから注意喚起を行っていたため、その間にクマが移動し、住民への危険周知が徹底できないという課題があった。今回新たに導入されたシステムでは、自動撮影された画像をAIが「クマ」と判断すると、自動的に防災無線が作動するという仕組みで、富山市内の一部地域で実験的に運用中だ。関係者の一人は「すぐ住民に呼び掛けられるので、安全確保には有効的」と語った。

 また、クマ被害を事前に防ぐ策の一つとしても、AIは活用されている。日本気象(大阪市)はクマとの遭遇リスクを地図上で評価した「クマ遭遇リスクマップ」を開発。ツキノワグマの主要な分布域である本州全域が対象で、広域を対象とした高解像度のリスクマップは、国内初の試みだという。

 クマとの遭遇リスクの低い地域は青、高い場所は赤色で表示するなど、危険予測をマップ上で可視化。「お天気ナビゲータ」というサイト上で公開されており、アクセスすれば誰でも利用できる。

 同社によると、これまでの対策は過去の出没地点に基づくことが多く、過去の出没の実態が把握されていない地域では潜在的なリスクの算定が難しかった。

 クマ出没リスクは、自治体が公表している過去のツキノワグマ出没情報に加え、植生や地形、気候といった環境データを機械学習で解析して算出。クマの出没しやすい環境パターンをAIに学習させることで、過去に出没実態が把握できていない地域もカバーしている。

 一方で、同マップはクマの「生息地そのもの」ではなく、あくまで「人とクマとの遭遇が発生するリスク」に焦点を当てている。そのため、人の立ち入りが少ない山林内などでは、相対的にリスクを低く見積もってしまうため、同社は入山前の下準備といった利用には避けてほしいと呼び掛けている。

 それでも人間の生活圏内で、クマ出没のリスクがどの程度潜んでいるのか科学的なデータがあれば、自宅にクマ撃退用のスプレーを備えたり、自治体で身を守るための安全講習会を開くなど、事前対策を万全にするきっかけにもなる。クマの脅威は今年だけの問題ではない。クマによる犠牲者を減らす工夫は、これからも継続して模索していくべきだろう。

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