
石破茂首相は10日、戦後80年に合わせた先の大戦に関する見解を発表する予定だ。その中で、なぜ戦争を止められなかったかという論点や、当時の政治の役割を見解に盛り込む考えを示している。これについて保守系政治家や有識者らから懸念が噴出している。(豊田 剛)
「戦後70年安倍談話の上書きは必要ない」「戦後80年談話を出すことを阻止する」
8日午前、首相官邸前と自民党本部前で「石破談話阻止」を訴える街宣活動が行われ、保守系の有識者らがマイクを握った。「日本の真の独立を目指す有識者会議」発起人の山下英次・大阪市立大名誉教授は、日米関税交渉で米国の言いなりになり、中国の抗日戦勝80周年パレードにアジア諸国の首脳の参加を許したことを「石破政権の二つの大きな失敗」と指摘。その背景に、「歴史認識が間違っていた」と強調した。
石破氏は終戦記念日の8月15日、降伏文書調印日の9月2日、同月25日(日本時間)の国連総会、いずれかのタイミングで80年談話・見解を出そうと模索したとされるが、見送っている。
石破氏は、閣議決定を経ずに「戦後80年の見解」と題する声明を発する見通し。大東亜戦争開戦の経緯や戦前の国家体制、政治家の役割などに言及するとみられる。「なぜあの戦争を止めることができなかったか。政治はいかなる役割を果たし、いかなる役割を果たさなかったか」との論点を盛り込む考えを示している。
今月7日夜、石破氏と小泉純一郎元首相らとの会食に同席した山崎拓元自民党副総裁によると、石破氏は、小泉氏が2005年8月に公表した「戦後60年談話」をたたき台の一つにしたいとの意向も明らかにしたと報道された。石破氏は8日、北岡伸一東大名誉教授と官邸で会い、80年見解について意見を聴き取った。
見解では、1941年の日米開戦前、若手官僚らを集めた「総力戦研究所」が「日本必敗」と予測したにもかかわらず戦争に進んだ経緯に触れた上で、1940年の帝国議会で日中戦争を批判した斎藤隆夫元衆院議員の「反軍演説」に言及するとみられる。斎藤は40年2月2日、衆議院の代表質問で、日中戦争について「現実を無視し、聖戦の美名に隠れ、国民的犠牲を閑却」すると糾弾。軍部から強い反発を受け、不適切を理由に国会の議事録から3分の2に当たる約1万字が削除。その後、衆議院から除名された。
石破氏は反軍演説に思い入れが強いとされ、2018年7月には兵庫県豊岡市にある斎藤の記念館を訪問。戦後80年を迎えた今年1月の会合で、斎藤に触れて「権力に屈せず本当のことを言わないと国は傾く」と語った。
首相のこうした動きに対し、高市早苗新総裁は、安倍晋三元首相による70年談話を「未来志向で、次の世代にまで謝罪を繰り返してもらいたくないという思いを込めたものだ」と評価した一方、80年見解については「必要ない」と断言した。

自民党の保守系グループ「日本の尊厳と国益を護(まも)る会」代表の青山繁晴参院議員は8日、記者会見を開き、「80年見解の発出に強く反対する」と述べた。青山氏は、これまで複数回、首相側に80年談話・見解を発出しないよう要請してきた。青山氏は、「新たに80年談話が出されると、反日姿勢が変わっていない中国、ロシア、北朝鮮、韓国に歴史戦利用されることを懸念する。安倍氏の70年談話を完成形とすべき」と強調。「高市新総裁に縛りを掛けることになるので遠慮してほしい」と訴えた。首相は今回、要請を受け取らなかったという。





