トップ国内安倍元首相銃殺から3年 左傾化の防波堤だった 自民ふがいなく喪失感深まる【論壇時評】

安倍元首相銃殺から3年 左傾化の防波堤だった 自民ふがいなく喪失感深まる【論壇時評】

安倍氏の外交功績 「戦後」を終わらせた

外交・安全保障における安倍晋三元首相についての評価はどうか。

大阪大学名誉教授の坂元一哉氏は、安倍氏が残した功績として二つ挙げる(「WiLL」8月号「安倍晋三が『戦後』を終わらせた」)。戦後70年の節目に発表した「安倍談話」(70年談話)と集団的自衛権の限定行使を可能にした「平和安全法制」だ。

政治学者の故・高坂正堯氏はその遺稿で、戦後日本は二つの「病根」を抱えていると指摘したことを、坂元氏は論考冒頭で挙げた。二つの病根とは「過去の重い荷物」つまり先の大戦に対する贖罪(しょくざい)意識と、日米同盟を巡る「言い抜け、詭弁(きべん)」だ。

リアリズムの立場から、日本の国際政治に影響を与えた高坂氏が憂いた二つの病根を、安倍氏は70年談話と平和安全法制で取り除こうとしたのだという。それは完璧でないにしても、かなり成功したと評価していい。

70年談話では「侵略」「植民地支配」という言葉を一般論の文脈で使いながら、世界の大勢を見誤ったことを認めつつも自由・民主主義・人権という基本的な価値を堅持し「積極的平和主義」で世界に貢献することを宣言した。この未来志向の談話は、戦後50周年の終戦記念日に当時の首相、村山富市氏がアジア近隣諸国への侵略行為や植民地支配を反省した、いわゆる「村山談話」を否定することなく「上書き」することに成功した、と坂元氏は評価する。

一方、平和安全法制はどうか。安倍氏が憲法解釈を変えて集団的自衛権の限定行使を可能にし、日米同盟でより大きな役割を果たす姿勢を明確にしていなければ、日米安全保障条約の“片務性”に不満を持つトランプ大統領からの日本の防衛費を巡る外交圧力はさらに強まっていただろう。

安倍氏が戦後を終わらせたとすれば、それはなぜ可能となったのだろうか。坂元氏は「安倍外交は安倍氏の確固たる国家観、歴史観に基づき展開」されたと述べている。そして、「その流れを汲むと考えられる」元経済安全保障相の高市早苗氏(自民)への期待を表明。「安倍氏がお墨つきを与えた高市氏であれば、トランプ大統領と良好な関係を築くことができるはず」と論考を結んだ。

だが、安倍政治の継承は、高市氏一人では心もとない。そこで保守論客が注目するのは旧清和政策研究会(旧安倍派)の幹部だ。小川榮太郞氏は「清和会の幹部に今求められる事は、この安倍氏のイデオロギーと思想戦そのものを引き受ける事だ」と訴える(「正論」「安倍晋三を失った保守の病理」)。その上で「高市氏が今信任を受けているのも、政策能力もさる事ながら、安倍イズムを最もラディカルに継ぐ人と見做されているからに他ならない。が、清和会という塊の中から安倍イズムの後継者が出ない限り、高市氏の求心力も限定的にとどまり、自民党の思想軸は不安定化する」と不安を隠さない。

参議院選後、政治の混迷がさらに深まることが予想される。注目したいのは、旧清和研究会に加え、党派を超えた政策研究会として結成された創生「日本」に連なる保守政治家たちだ。男系男子による皇位継承、夫婦同姓制度を守り、外交では日本との良好な関係が「強い米国」に貢献できるとトランプ政権を説得し中国と対峙(たいじ)するなど、安倍氏の志を継いで保守政治の再生に向けどんな動きを見せるのか。日本の未来が懸かっている。

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