
トランプ関税・保守の自民離れ
安倍晋三元首相が、参院選挙の遊説中に暗殺されて8日で3年になる。日本が安倍氏を失った損失は大きく、「安倍さんがもし生きていたら…」と言う声は強まるばかりだ。一方で、このような重大事件でありながら、十分な真相究明も行われないまま、事件は山上徹也被告の単独犯との見方で、公判が10月28日に始まる。(世界日報特別取材班)
安倍氏暗殺の現場となった奈良市の近鉄大和西大寺駅前。銃撃を受けた道路やその周辺は整備され、すっかり様変わりした。重大事件が起きた現場であることを思わせるものは一つもない。記念碑・慰霊碑を建てないという奈良市の方針によるものだが、故意に記憶を消し去ろうとしているのではないかと疑いたくなるくらいだ。
それではあまりに忍びないと、事件から約1年後、県内の自民議員ら有志によって市内の「三笠霊苑」に慰霊碑「留魂碑」が設置された。事件現場から5㌔も離れた霊園の一画に、安倍氏の自筆を元にした「不動心」の文字が刻まれた石碑があり、その前に献花台が置かれていた。献花に来る人は絶えないようで、献花の横には「献花台には、お花とお手紙のみとさせていただきます」などと張り紙がしてあった。
安倍氏ほど、亡くなった後も影響を残した政治家は少ないのではないか。今も左派系のメディアは陰に陽に、安倍氏の政治的遺産(レガシー)を否定し貶(おとし)めようと躍起になっている。それはかえって安倍氏が残したものの大きさを示している。
日本を取り巻く国際環境がより厳しくなる中、「安倍さんが生きていたなら…」という嘆きの声がますます強まっている。トランプ米大統領が4月に日本に対する24%の追加関税を発表した直後、群馬県の山本一太知事は、「こういう時、やっぱり安倍晋三元首相が生きておられたらなあと思う。もし存命なら、誰が首相でも政府特使として米国に飛び、トランプ氏と膝詰めで交渉しているだろう」と強調した。
関税交渉は赤沢亮正経済再生担当相が7回訪米しても埒(らち)が明かず、トランプ大統領は、対日関税を「30%か35%」に引き上げる考えを示唆し、コメや自動車貿易で強い不満を表明し圧力を強めている。
八木秀次(ひでつぐ)・麗澤大学教授は月刊『正論』8月号の対談で「安倍さんが仮に存命であれば、事前にトランプ大統領から相談を受けて、『国際秩序の再構築を一緒にやろうよ』という話になっていたと思うのです」と述べている。トランプ大統領が世界のリーダーで最も信頼したのが安倍氏だった。安倍氏ならトランプ氏と西側リーダーとの調整役を買って出ただろう。
一方国内政治では、安倍氏という保守の精神的な支柱が失われ、自民党は、LGBT法を成立させるなど、じわじわと左傾化が進んでいる。6月29日、ジャーナリストの櫻井よしこ氏が呼び掛け人となって「安倍晋三元総理の志を継承する集い」が東京都内で開かれた。出席した石破茂首相は、安倍氏の憲法改正への取り組みを評価した上で、「勇気と真心を持って国民に訴えていくことがわれわれの責務だ」と述べたが、参院選を前にしての保守層へのアピールが狙いとみられ、どこまで改憲に取り組んでいくかは未知数だ。
今度の参院選では乱立する野党の中で保守政策を掲げる政党も目立ち、昨年の衆院選よりも保守の岩盤支持層の自民党離れがさらに顕著になる可能性がある。事件後の3年間、岸田、石破政権の下で安倍路線を実質的に否定し左傾化する自民の変化を有権者がどう評価するのか、主要な焦点となっている。