国防意識の低さに危機感
=14日、東京都港区の同財団ビル.jpg)
日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、防衛の要である自衛官の採用を巡っては定員割れが常態化している。人員不足解消に向けて政府は2024年10月、関係閣僚会議を発足するなど自衛官の処遇改善に動きだした。こうした対策をより加速させようと、笹川平和財団(角南(すなみ)篤理事長)は14日、「防衛力の人的基盤強化」と題する政策提言を都内で発表。新年金制度などに言及した政策を提言しつつ、「国防意識の低さに起因して発生した安全保障環境の危機的状況を、国を挙げて打開しなければならない」と強調した。(竹澤安李紗、写真も)
「自衛隊に良い印象を持っている」。内閣府が23年発表した世論調査でこう答えた割合は90・8%を占めた。自衛隊は災害派遣活動などで国民から評価される一方、人口減少による人材獲得競争などの影響から、自衛官の採用数は急速に減少している。
防衛白書によると、23年度の採用数は8190人と、目標に対して51%の達成率と低迷。22年度と比べても、採用者数は約1900人減った。増加する中途退職者の影響も相まって、自衛官の定員約25万人のところ、実際の人員はその9割にとどまっている。
政府は、22年12月に閣議決定された安保関連3文書「国家安全保障戦略(安保戦略)」、「国家防衛戦略(防衛戦略)」、「防衛力整備計画(整備計画)」に基づき、自衛官確保と処遇改善を検討している。24年10月に発足した関係閣僚会議では、給与の引き上げや生活勤務環境の整備、再就職支援の強化などを検討し、25年度予算案に4097億円を計上した。
同財団の「安全保障戦略のあり方研究会」(座長=黒江哲郎元防衛事務次官)は、「自衛官の人的基盤を防衛力の骨幹」と見なし、「人材確保は喫緊の課題」と位置付けた。「既存の枠組みにとらわれない大胆な施策が必要」とし、1年間の海外現地調査や討議を重ねた上で、政策提言にまとめた。7日、中谷元・防衛相に提出した。
黒江氏は、自衛官の処遇改善に向けて省庁を横断して対策に乗り出した政府を「高く評価する」一方で、「人口減少が加速する中、政府の施策だけでは十分とは言えない」と強調した。
8項目からなる提言は、①社会基盤の強化②自衛隊の組織改革③官民協力の促進―の三つのアプローチで構成される。
中でも、自衛官の定年が階級に応じて55~60歳に設定され、退官後の人生設計が難しいという課題に目を向けた。米・英・独・豪・シンガポールにおける海外調査で、退職後に受けられる軍人恩給制度が大きなモチベーションであると判明。日本でも所得の不利益を軽減するため「国家補償年金制度(仮称)」を創設することを提案した。
人材確保だけでなく組織改編も必要に迫られている。自衛隊創設から70年が過ぎ、戦い方がその当時から大きく変わったからだ。技術革新の結果、宇宙・サイバー・電磁波領域や無人機による攻撃、情報戦など新しい時代に突入。軍事と非軍事の境がない現代戦では、少ない人員を効率的に配置することが求められる。
提言では「自衛隊を自衛官でしか担うことのできない分野に特化した組織へ改編し、後方支援分野は予備自衛官や退職自衛官を活用し、民間への移管」をすると提案した。
近年、若い自衛官の意識にも変化があると指摘したのは、同研究会の村川豊・元海上幕僚長。学校を卒業したばかりの幹部候補生たちには「自衛隊はどこまで自分を高めてくれるのだろうという思いが強い」と明かした。「キャリア形成」という言葉が一般的になった昨今、自衛官個人の能力を高め、「入って良かったと思われるキャリア支援が提供できるかが勝負だ」と見解を示した。
自衛官の人員不足という危機的状況を打開するため、黒江氏は「国民の国防意識の向上が重要だ」と語り、「命を懸けて困難な職務に従事する自衛官へのリスペクトを社会全体で持ち、自衛官が誇りと名誉を持って勤務できる社会基盤が必要不可欠である」と訴えた。