地下鉄サリン事件の引き金に
寄稿 東京キリスト教神学研究所幹事・中川晴久(上)

早稲田大学第一文学部を退学後、教会献身。2007年、主の羊クリスチャン教会主任牧師。08年、東京フランシスカン研究会(現東京キリスト教神学研究所)に入会。キリスト者オピニオンサイトSALTY論説委員。日本基督神学院院長。
世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)の解散命令請求から判決に至る過程は、驚くほど不透明だった。文科省の証拠捏造(ねつぞう)やディプログラミング(脱洗脳プログラム)被害の実態、政治的圧力の影響といった重大な問題が、すべて不問に付されたまま判決が下された。このような閉鎖的なプロセスは、国民の知る権利を損ない、司法の信頼を揺るがすものだ。
家庭連合への解散命令は、単なる一宗教団体の問題を超え、日本の司法・政治システムの透明性や公正さを問う試金石となっている。法治国家として、特定の団体を標的にした感情的な対応ではなく、客観的かつ公平な法適用が求められることは言うまでもない。
東京地裁の家庭連合解散命令は、政治的圧力、証拠の不正、ディプログラミング被害の無視、非公開審理という数々の問題を孕(はら)んだ異例の判決だ。これらの問題を看過することは、司法の信頼を損なうだけでなく、宗教の自由や人権保護の観点からも深刻な影響を及ぼす。
オウム真理教と家庭連合は、教義や性質において対極にあるにもかかわらず、共に「カルト」のレッテルを貼られ、「ディプログラミングネットワーク」の標的となってきた。
1995年の地下鉄サリン事件は、日本社会に深い傷を残したオウム真理教によるテロ行為として歴史に刻まれているが、この事件の背景に潜む複雑な要因の一つとして、ディプログラミングが関与した可能性が指摘されている。
宗教学者の大田俊寛氏は、ディプログラミングがオウムの凶暴化に影響を与えた「可能性」を検証する必要性を強調している。大田氏は『オウム真理教の精神史』の著者でもあり、事件後も関係者に聞き取り調査をする中で、オウム事件の背景にあってディプログラミングの要因が一切語られていないことに疑問を持っていた。事件から30年が経過した今、改めて注目すべきだ。
当然ながらオウム真理教が反国家的なイデオロギーを強め、サリン散布に至った背景には、複数の要因が絡み合っている。とはいえ、ディプログラミングがオウム信者に与えた心理的トラウマが、教団の被害妄想や攻撃性を増幅させた可能性は無視できない。
事件当時のオウム真理教の顧問弁護士である青山吉伸弁護士がオウム事件前に書いた著書『真理の弁護士がんばるぞ!!』『ファッショは始まっている』(オウム出版)を読むと、オウム信者らが拉致監禁されて強制棄教されていることに対して、相当苦しめられていたことが分かる。
その報告は、教団の代表である麻原彰晃の耳に届いていた。麻原は、外部からの圧力に対して過剰に対抗する傾向を持つ指導者であったのだから、拉致監禁や強制的な思想改造が信者に深い憎悪やトラウマを植え付け、それが麻原の被害妄想を悪化させた可能性は、検証に値する。
ディプログラミングのような重要なファクターが議論から抜け落ち、事件の全貌は不明のままというのは、この研究に携わる宗教学者は一体何をしていたのか。ディプログラミングを受けた信者の反応は多様であり、必ずしも反社会的な行動に直結するわけではない。それゆえ、単純な因果関係の特定は困難だが、可能性としての影響を検証することは不可欠だ。
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