SNSで被害の声届けたい

「私は家庭連合(世界平和統一家庭連合、旧統一教会)の現役信徒です。過去に監禁され強制的に改宗を迫られました」
X(旧ツイッター)アカウント名「紫野猫」こと、50代の女性信者は今年4月から、Xで拉致監禁や脱会強要の被害を訴え始めた。
「解散命令に反対するため陳述書を準備したが思いが届かなかった。このままでは終われない」とSNSを始めた胸の内を本紙に明かした。文科省が証拠提出した過去の判決資料にディプログラミングにより脱会した人の意見が多数採用されていることについて、「監禁下で強制力をもって思想改造された元信者による証言は信憑(しんぴょう)性に欠ける」と不当性を訴えている。
紫野さんは1987年、京都にあるマンションの一室で家族らに閉じ込められた。「決着がつくまで何年でもここに居られるようになっている」と父親は脅すような態度を見せたという。両親は何とか棄教させようと、「教会の下には殺されて埋められている人が何人もいる」など、全く根拠のない教団の誹謗(ひぼう)中傷を一日中浴びせ続けた。
「あまりの苦痛に耐えられずトイレに逃げ込むと、合鍵で扉を開けられ引きずり出された」と当時の様子を語る。通常考えられないような状態が2週間も続くと、互いに異様な心理状態に陥り、「いっそ窓から飛び降りよう」と思わせるほど紫野さんを精神的に追い込んでいった。
「実家を出た後も日ごろから家族と会ってよく食事をしていた」ほど家族仲が良く、特に父親はたびたび教会へ足を運び、紫野さんの信仰を理解しようと努めていた。それなのになぜ両親は豹変(ひょうへん)してしまったのか。
きっかけは、教団に批判的な知り合いから船田武雄牧師(故人)を紹介され、同氏の教会へ通い始めたことだった。両親は船田氏から「殺人を何とも思わなくなる」「犯罪者になる」など、教団に関する偽りの情報を刷り込まれていった。後に両親は「保護(拉致監禁、脱会強要)する以外に犯罪者になるのを止めることはできないと思った」「私は牧師先生に怒られたんや」と当時の心境を吐露している。
船田氏が監禁場所のマンションを訪れると、抵抗する紫野さんに対し「父親は羽交い締めにして座らせ、母親は髪の毛をつかんでうつむいた顔を無理に上げさせ、さらに時には兄弟から腹を蹴られることもあった」と当時の状況を振り返る。船田氏は力ずくで押さえられている紫野さんに対し、「統一教会はどんな人も愛せよと教えているだろ」と挑発し、大声で怒鳴りつけ棄教を強要した。
紫野さんが壮絶な環境を抜け出すために考え付いた唯一の方法は、「洗剤を飲み込んで病院へ運ばれ、脱出すること」だった。液体を一気に飲み込んだ直後、激しい吐き気に襲われ「病院へ連れて行ってほしい」と涙で母親に訴えたが、「あんた、こういう事もあるって牧師先生に聞いてるんや」と冷たくあしらわれたという。死を覚悟するほどの訴えも最初から織り込み済みだった。結局入院するまでに1時間も要した。病床でも家族が常に監視し、逃げ出せない状態が続く中、いよいよ精神病院へ転院する話まで進んでいた。
病院を抜け出すことができたのは「奇跡のようなことが起こった」からだと紫野さん。偶然にも看護師の中に教団の信者がいて、教会に連絡を取り、脱出の手助けをしてくれた。非常階段をはだしで駆け下り、約1カ月ぶりに自由の身となったが、その後は再び拉致されるかもしれないという恐怖から、本名を隠して社会から身を潜めた。さらに重いPTSD(心的外傷後ストレス障害)を患い、何年もの間、これまでのような生活を送ることができなくなった。
反対勢力介入で家庭が崩壊
病院から逃げ出した後、両親は血眼になって紫野さんを探した。船田氏の指導で再び監禁するよう推奨され、同氏に紹介されたある通信社の記者から、紫野さんの居場所や情報を随時聞いていたのだ。あまりに詳細な情報に「別の協力者がいることを疑うほど」だったという。
その間に指導された内容を記した両親のノートには、「とにかく手紙や品物、現金などを送ること」「教会は私的に使えるお金が少ないので必ず受け取る」「荷物を送り続けていれば、どこかで転送ミスが起こり本人の住所を特定できる可能性がある」とのメモが残されていた。教団信者へのディプログラミングが巧妙にマニュアル化され指導されてきたことが分かる。
両親との和解のきっかけは、紫野さんの長男が不慮の事故で亡くなった後の昇華式(教団の葬儀)だった。両親は式を準備する信者の姿を目にし「感動した」と話している。
結局2度目の拉致監禁に至らなかった理由について両親は、「そんなに強制しても人の心を変えることは難しいとだんだん分かってきてた」と話している。船田氏の印象については、「執念と言うか、決意はすごかった。良い悪いは別にして、信仰している人の意欲と言うか、意思はすごいわ」と振り返ったという。
紫野さんは取材に対し、「家庭連合に反対する勢力が介入することで、多くの家庭が崩壊し苦しむことになった。(拉致監禁)被害者4300人は地獄の苦しみを味わい、自ら手を下した家族も苦悩を抱えることになった」と指摘。昨今のマスコミ報道の影響で「カルト、洗脳集団、マインドコントロールという誤った言葉が独り歩きし、信者は何か恐ろしい『怪物』のように印象付けられている」と述べた。
(信教の自由取材班)
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