「マインド・コントロール」根拠に

「(子供は)マインド・コントロールされており、自分で抜け出すのは難しいと親たちは指導される」
「全国拉致監禁・強制改宗被害者の会」代表の後藤徹氏は2月10日、自伝「死闘」(創藝社)の出版記念講演で強調した。後藤氏は世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)の信仰に反対する家族らによって、12年5カ月間、マンションの一室に監禁された経験を持つ。
家庭連合信者を標的とした監禁には、「脱会屋」と呼ばれるキリスト教牧師や活動家が関わり、家族からの相談を受けた上で強制棄教を行っている。親たちは「専門家でなければ難しい」と言われ、〝保護〟という名目で「拉致監禁に走ってしまう」と後藤氏は説明する。
後藤氏が「信仰破壊」「精神的リンチ」とも表現する拉致監禁を、信者の親たちが実行してしまう理由の一つが「マインド・コントロール理論」だ。拉致監禁の正当化のみならず、裁判では監禁を実行した側の弁明にも使われる。
広島県在住の家庭連合信者夫婦が2014年7月、同じ日に拉致され、子供たちとも引き離されるという事件が発生した。夫は車に乗せられた際、両手をひもで縛られ、頭から黒い布袋をかぶせられた。妻は実家に帰省中、手首足首などを縛られて寝袋に頭まで入れられたまま、車で監禁用のマンションまで運ばれたという。
警察への通報などにより、数日で解放された夫婦は16年5月、監禁に携わった親族やキリスト教関係者に対し、損害賠償を求めて広島地裁に民事訴訟を起こした。
被告側は全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の郷路征記(ごうろまさき)弁護士を代理人に、マインド・コントロール理論を軸として反論。信者夫妻の監禁理由について、家庭連合の信者となって「人格を変えられ」、話し合いをしようとしても逃げてばかりだったので、「自分の頭で考える機会を持ってほしい」という思いから、「最小限度の有形力を行使」したと主張した。監禁して教団から隔離しなければ、マインド・コントロールから抜け出せないという言い分だ。
さらに教団によって「思想良心の自由、信教の自由、財産権、幸福追求権を侵害された」と強調。この状態は「脱会しない限り一生続く」と決め付け、夫婦を拉致監禁した行為に違法性はないと述べた。
これら親族側の主張は、裁判所で一切採用されなかった。広島高裁は20年、信者夫婦の監禁は「生命身体に対する重大な危険をも招来し得る悪質な犯罪行為」と判断。〝最小限度の有形力の行使〟とは到底言えず、正当行為と認めることはできないと結論付け、被告らに約170万円の支払いを命じた。マインド・コントロール理論は、裁判で見向きもされなかったのだ。
親族たちは「逃げてばかり」と訴えたが、妻の金森百合絵さん(50代、仮名)によれば、監禁前から交流をよくしていたものの、「脱会させたい親と、絶対脱会しない私たちとで、話し合いが平行線だっただけだ」と指摘。親は伝道すら犯罪のように思っていたといい、監禁中も「私たちが〝犯罪者〟になる前に辞めさせなければ、という恐怖心を親から感じた」と振り返る。
「家庭連合は悪」という偏見が、マインド・コントロール理論によって煽(あお)られた末、ディプログラミングへと掻(か)き立てられているとすれば、「コントロール」されているのは果たしてどちらなのだろうか。
(信教の自由取材班)
陳述書に棄教強要の手口 家庭連合解散請求に広がるディプログラミングの闇(1)
強制棄教を解散の手段に 家庭連合解散請求に広がる ディプログラミングの闇(3)
背教者が作り上げた裁判判決 家庭連合解散請求に広がる ディプログラミングの闇(4)
親子の和解に尽力する信者ら 家庭連合解散請求に広がる ディプログラミングの闇(5)
拉致監禁され異常な心理状態 家庭連合解散請求に広がる ディプログラミングの闇(6)