トップ国内相続問題を献金被害にすり替え 札幌高裁で家庭連合勝訴

相続問題を献金被害にすり替え 札幌高裁で家庭連合勝訴

自身の体験談を話す山辺広輔さん(仮名)=北海道札幌市(石井孝秀撮影)

東京地裁が3月25日に出した世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)の解散命令の決定では、教団の不法行為を「推論」によって認定し、波紋を呼んだ。実際のところ、同月の札幌高裁では家庭連合の「不法行為」が全面的に退けられた後、原告側が請求を放棄した事例もある。札幌市在住の家庭連合信者、山辺広輔さん(60代男性、仮名)のケースだ。(信教の自由取材班)

破綻したマインド・コントロール理論

山辺さんは2人の姉と弟から、2017年に亡くなった父親の預金を教団への献金のために使ったとして、19年9月に全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の郷路征記(ごうろまさき)弁護士を代理人とする約2600万円の損害賠償訴訟を起こされた。

山辺さんだけでなく家庭連合も被告となり、過去に札幌での「青春を返せ裁判」も担当した郷路弁護士は、訴状で教団を「教唆者」と強調。山辺さん夫婦に信仰を植え付けて「金銭収奪を実現した」と主張した。さらに準備書面で家庭連合信者を「人格全体が終生にわたって統一協会的人格に変容」し、「伝道・教化過程の結果、違法な行為をさせられるために、統一協会に隷従させられる」と断じた。

山辺さんは「父の承諾があったかどうかが争点になると思っていた」が、原告側が信仰心を完全に否定する、実質的な「マインド・コントロール」理論を展開したため、「馬鹿にしているとしか思えない」と憤った。一方で「兄弟間の相続問題に宗教問題を絡ませ、家族を利用している」とも感じたという。

山辺さんが妻・八千代さん(60代、仮名)と共に、一人暮らしの父親と同居を始めたのは1994年からで、それからずっと農作業の手伝いや生活面のサポートをしてきた。農家の父親は宗教を毛嫌いしていたが、息子夫婦の信仰にはほとんど口を出さなかった。

2015年に入ると、高齢のため車の運転を八千代さんに任せるようになり、身の回りの用事を山辺さん夫婦に頼むことも増えた。金銭管理に厳しい父親だったが、山辺さん夫婦には支援を惜しまず、キャッシュカードを託して「何かの時には使ってもいい」とも伝えていた。生活費や教育費に困った際には父親の預金を利用し、さらに教団で行っている先祖供養のための献金も支払った。

「父の承諾は得た」という山辺さんだが、父親の体調が崩れ始めた16年のある日、姉たちが山辺さん宅を訪問。そして、山辺さん夫婦がいない間に姉たちは家の中を物色し、通帳やキャッシュカードなどを持ち去った。姉たちは通帳の出金記録から大部分が献金であると決め付けて激怒し、家族会議が行われることになった。

しかし、不可解な点もある。姉たちは父親名義の通帳などのほか、山辺さん名義のクレジットカード、当時高校生だった山辺さんの子供のラジカセまで勝手に持ち出していたのだ。その言い分は、教団の献金など「変なことに使われるから」という理由だったというが、子供の所有物まで持ち去った理由にはならない。しかも、一番上の姉は父親の通帳を持ち出した後、その預金を数百万円単位で使い込んでいたことが判明した。

献金と決め付けて請求してきた主張にも、水増しが多かった。父親が起こした自動車の自損事故約50万円の修理代など、献金ではないことが明白な出金すら「被害」として計上する杜撰(ずさん)な対応だった。

原告は「決めつけの主張」

裁判の行われた札幌高裁・札幌地裁=北海道札幌市(石井孝秀撮影)

同年11月に姉らは暴力行為にも及んだ。山辺さんの留守中、八千代さんが自宅に押し掛けた姉たちから詰め寄られた。その際、献金の意図を説明すると姉の一人が激昂(げきこう)。頬を叩(たた)かれた上に髪の毛をつかまれ、「体が浮くくらいに引っ張られた」という。さらにストーブの上に置かれていた蒸発皿の中の水を掛けられた。裁判資料によると、姉たち側は「ぬるめのお湯だった」という認識だったと主張しているが、八千代さんの受けた恐怖と精神的な苦痛は大きかった。

だが、山辺さんの証言および録音で残された証拠によると、亡くなった父親は姉たちの顔を立てながらも、山辺さんに返済などは求めていなかった。

裁判結果も一審の札幌地裁では、昨年3月7日付で家庭連合への請求をすべて棄却。原告側は控訴したものの、3月12日付で自ら請求に理由がないことを認めて請求を放棄し、山辺さんとは400万円で和解した。

被告側の裁判関係者は「原告が献金した本人でないため、どういった事実関係で献金が行われたか一切見えておらず、決めつけの主張が多かった」と指摘する。こうした裁判が、教団の不法行為を「推論」によって認定し、東京地裁の解散決定につながったのだろうか。もしそうだとすれば、疑問を抱かずにはいられない。裁判を終えた山辺さんは「向こうの要求通りにならなかったという意味では勝訴だと思う」と話した。

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