トップ国内【特報】家庭連合信者の夫婦拉致監禁事件(下)「自分の頭で考えられない」と親族

【特報】家庭連合信者の夫婦拉致監禁事件(下)「自分の頭で考えられない」と親族

「説得」手段正当化するも敗訴

拘束された時、金森百合絵さん(仮名)の右肘にできた傷=本人提供

「今まで統一教会信者を数百人脱会説得して、(監禁から)脱出できたのは30人くらいだ」

キリスト教神戸真教会(プロテスタント教会)の高澤守牧師は2014年7月、大阪府内のマンションに監禁されていた金森百合絵さん(当時40代、仮名)の面前でそう言い放った。

高澤牧師は終始一方的な態度で金森さん夫婦に接し、時には世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)への批判を午後3時から夜10時まで語り続けることもあった。金森さんはその「説得」を延々と聞かされる精神的苦痛だけでなく、親族たちから縛り上げられた時、手足にできた全治2週間の打撲の痛みとも戦わなければならなかった。苦痛に耐えかねた金森さんが布団に横になると、高澤牧師は激高して「人の話を聞く態度がなっていない!」と吐き捨てたという。

だが、金森さん夫婦が監禁場所に来た警察官によって解放された直後、高澤牧師は親族らを集めて土下座させ、裁判を起こさないよう金森さんたちに懇願。返答をしないまま広島市の自宅に戻った金森さんは、親族に示談交渉を行った。

監禁されていたマンション=2014年、本人提供

示談の内容は今回の監禁事件にまつわる事実関係を認めることや二度と強制棄教のような行為を繰り返さないことなどで、「これらを守るなら裁判はしないと伝えた。親族にもかなり有利な内容のはずだった」と金森さんは話す。ところが、親族は示談には応じられないと回答し、むしろ示談交渉を求める金森さんを非難してきた。金森さんは「親族の裏で、牧師たちが都合のいいように動かしていたのだろう」と推測する。

金森さんたちは監禁から約4カ月後の14年11月、強制棄教の中心的な役割を担った高澤牧師らを刑事告訴したが、高澤牧師は翌15年に自殺。検察は起訴猶予により、同事件を不起訴処分とした。

検察の判断に納得できなかった金森さん夫婦は、再び拉致監禁される不安を拭い切れなかったこともあり、16年5月に監禁に携わった親族や西日本福音ルーテル青谷教会執事の尾島淳義氏への損害賠償約700万円を求めて、広島地裁に民事訴訟を起こすことに。地裁判決が出たのは19年2月で、金森さんたちの主張は全面的に認められ、親族やキリスト教関係者には約280万円の支払いが命じられた。

裁判の中で、親族やキリスト教関係者側は、教団の「悪質性」と家族の「情愛」をことさら強調。金森さん夫婦は教団によって「自分の頭で考えることができなくなっていた」ため、やむなく身体拘束して説得する必要があったと主張した。しかし、裁判所は金森さん夫婦を拘束・監禁した一連の行為は生命の危険にもつながりかねなかったと判断し、「悪質な犯罪行為というべきもの」として、親族らの主張を採用しなかった。

広島高裁での判決は翌20年で、支払いの額は約170万円に減額となったものの、概(おおむ)ね地裁判決を支持する判決となった。被告側が控訴を断念したため、判決が確定した。

関係修復の模索も

裁判が終わった現在、金森さんは両家の両親との交流を試みている。少しずつ交流は再開しているが、いまだに母親から「拉致監禁よりも、お前たちが家庭連合に入ったことの方が異常だ」と言われるという。家庭連合は日曜の午前に「聖歌賛美」「説教」「祈祷」など「聖日礼拝」を行っている一つの宗教であり、そこには信仰を持った人々が集っているという理解にも至らず、溝は深いままだ。

裁判所で、拉致監禁は犯罪行為と認定されながらも、牧師たちから与えられた「洗脳」「マインドコントロール」などのプロパガンダ情報を信じる親たちとの関係修復をどう進めるか、試行錯誤を続けている。金森さんは「監禁すれば必ず棄教するという口車に乗せられた親も、牧師に利用され傷つけられた被害者だ」と憤る。

SNSを利用した発信も昨年から始めた。教団に関連するネガティブな状況に一石を投じられればと始めたが、拉致監禁の体験者が持つ「言葉」の影響力の大きさも感じたと金森さんは話す。「もっと自分たちの信仰や考えなどを発信したり、伝えていけばよかったと反省することがある。今後、この体験を話す場も増えていくかもしれない」と語った。

(信教の自由取材班)

【特報】家庭連合信者の夫婦拉致監禁事件(上)寝袋に押し込められ一室に

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