
世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)の信者を標的に組織的に行われてきた閉じ込めや身体拘束を伴う棄教強要、いわゆる「拉致監禁・強制棄教」問題は、国連・自由権規約委員会が日本政府に是正を勧告した深刻な人権問題だ。ところが、文部科学省は東京地方裁判所に行った家庭連合解散命令請求の審理の中で、拉致監禁を「監視」と言い換えて正当化している一方、解散命令請求の証拠として提出している元信者などの陳述書に拉致監禁の様子が記されているものが複数あることが分かった。信者が受けた深刻な人権侵害は一切配慮せず、教団の解散だけを求める同省の姿勢が浮き彫りになった。(信教の自由取材班)
関係者によると、家庭連合側が東京地裁に提出した拉致監禁・強制棄教事件に関する資料に対し、文科省側は昨年9月20日付の主張書面で、「監視」という言葉を用いた。家庭連合側は裁判所が拉致監禁事件を巡る複数の判決で「監禁」を認定していることを示し、文科省が「監視」と言い換えたことに反論した。
教団によれば、拉致監禁事件は過去50年以上の間に4300件以上も起きている。だが、文科省は犯罪性・悪質性の薄い「監視」という言葉を用いて、人権侵害の被害者という家庭連合の立場を否定しようと試みた。目的達成のためとはいえ、宗教法人を所轄する文科省が深刻な信教の自由侵害の事案を意図的に否定するのは明らかに行き過ぎである。
また、文科省が家庭連合に対する解散命令の証拠として東京地裁に提出した元信者などの陳述書には、以下のような拉致監禁の体験が記述されていることが、関係者の話で明らかになった。
▽年末に帰省した信者が蔵の掃除を家族から頼まれたところ、蔵の外から鍵を掛けられて閉じ込められ、脱会させられた。
▽家庭連合信者の母親を強引に連れ出し、移動先のホテルの一室から逃げ出さないように複数で監視して脱会させた。
▽家庭連合信者の娘を持つ父母が家庭連合に反対するキリスト教牧師のもとで半年ほど勉強し、親戚の協力を得て娘をホテルにこもらせて脱会させた。
家庭連合の田中富広会長は昨年12月、国際宗教自由連合(ICRF)日本委員会(委員長・伊東正一九州大学名誉教授)が東京都内で開いた集会で、拉致監禁・強制棄教によって脱会させられた元信者の証言に頼って文科省が解散命令請求を行ったことを強く批判した。
田中氏は「文科省は新たに『監視』という表現まで使って、どこまでも作られた被害者であることを隠蔽(いんぺい)し続けている」と訴え、「このような脱会者たちの証言のみに頼る政府の動きは国民を誤導し、法の支配に立つ民主主義を根底から崩壊させてしまう」と主張。拉致監禁された信者の「3割は帰還している」と報告し、「なぜその者たちの実体験に耳を傾けようとしないのか」と強調した。
「全国拉致監禁・強制改宗被害者の会」代表で、12年5カ月にわたって拉致監禁された後藤徹氏は今月1日、都内で開かれた集会で「皆さん、閉じ込められたことはありますか。人を閉じ込めることは犯罪です」と悲痛な体験を語った。
後藤氏は自身を監禁して棄教を迫った親族やキリスト教牧師、脱会専門の活動家を相手に民事訴訟を起こし、2015年9月、最高裁で勝訴が確定。被告側に2200万円の賠償命令が下された。この訴訟の過程で、拉致監禁・強制棄教のマニュアルが証拠として提出されている。
国連・自由権規約委員会は14年に日本政府に対し、拉致監禁による強制棄教を防ぐ実効措置を取ることを勧告した。自由権規約第9条1項は、「すべての個人は身体的自由と安全の権利を有しており、法律によらない限り逮捕、拘留されない」と定めている。
国際法に違反する人権侵害である拉致監禁・強制棄教を、文科省は家庭連合解散命令請求の審理の中で正当化している。これは被害に遭った家庭連合信者の信教の自由を二重に踏みにじるだけでなく、宗教信者を標的にした「脱会ビジネス」を助長する危険性をはらんでいる。