
新しい歴史教科書をつくる会(高池勝彦会長)と歴史人物学習館(館長・布瀬雅義氏、安達弘氏)は2月1日、小中学校の児童生徒を対象とした、北朝鮮による日本人拉致被害の問題を授業でどう扱うか考える研究集会を東京都内で開いた。実際に教員が行った授業実践の報告もあり、未来を支える子供たちへの拉致問題の伝え方や学校教育での位置付けについて、さまざまな意見が挙がった。(石井孝秀)
「拉致問題は学校教育で扱う重大な課題だ」
報告をしたのは、都内の中高一貫校で社会科を担当する磯公啓氏。中学校学習指導要領解説の歴史的分野によると、授業を通じて生徒たちは、日本と近隣諸国の間に「日本人拉致問題など、主権や人権、平和など様々な課題が存在している」と気が付くようにすることが求められているとした上で、「拉致問題は国家的犯罪。国や地方公共団体の責任として、啓発を進めていくことが必要」と強調した。
ただ業務に追われる学校現場では、新しいことは忌避されてしまう傾向にあるため、既に多くの学校で実施されている人権教育やSDGs(持続可能な開発目標)教育に関連付けて扱うことを提案した。
磯氏は道徳の授業の中で「子どもの権利条約」を生徒たちに説明しつつ、拉致被害者の横田めぐみさんを題材にしたドキュメンタリー・アニメをクラスで視聴。当時、13歳だっためぐみさんが拉致により、親と引き離されない権利(第9条)や不法に国外へ連れ出されない権利(第11条)などが奪われたと説明した。
さらに磯氏の学校で、保護者や地域住民も参加できる道徳授業の公開講座に、めぐみさんの中学校の同級生で「横田めぐみさんとの再会を誓う同級生の会」代表の池田正樹さんを招いたと紹介した。
講演後の質疑応答の中で、生徒から「もしめぐみさんと面識がなくても、今の活動をしていたと思うか」と尋ねられた池田さんは「同じことをすると思う。放っておけない」と回答した。
磯氏は「道徳で生徒の心をどう育成するか考えた時、この言葉は重く刺さった」と話した。生徒の感想でも「人ごとではなく同じ日本人として胸に刻まなければいけない」といった声があった。
安達館長は別の学校で、小学生に向けて実施された授業を視察したことを報告。その際、児童たちがどこに強く反応したかに注目した。
拉致問題解決に向けて、外務省や政治家などの課題や失敗が示されると、児童たちの多くに困惑や不満の表情が浮かんだという。その一方で、拉致問題の早期解決に向けた施策の推進に関する条例が埼玉県議会で昨年、都道府県で初めて成立されたと聞くと、児童たちは「やった!」「よかった!」と喜びを露(あら)わにした。
その様子を見た安達氏は「涙が出そうになった」と話し、「一地方議会の決定にすぎないが、子供たちは自分たちの国が拉致被害者救出を諦めない優しい国だと信じている」と強調。各自治体で条例の制定が進めば、もっと世論は大きく変わると話した。
つくる会の藤岡信勝副会長は「子供たちが素直に受け止めてくれたのは心強い。きちんと伝えれば、子供たちは受け止めてくれることを改めて確信した」と語った。
会場には、北朝鮮による拉致の可能性を排除できない「特定失踪者」の家族の姿もあり、「子供たちは特定失踪者のことも教えられているのだろうか。さまざまなケースや被害者がいることを知ってほしい」という訴えもあった。