トップ国内後藤氏自伝は日本版「夜と霧」 終わらぬ拉致監禁被害 【連載】信教の自由守る「死闘」 後藤さん解放17年(下)

後藤氏自伝は日本版「夜と霧」 終わらぬ拉致監禁被害 【連載】信教の自由守る「死闘」 後藤さん解放17年(下)

講演する「全国拉致監禁・強制改宗被害者の会」代表の後藤徹氏=10日午後、東京都杉並区(宇野泰弘

「すべての自由を奪われるんです。完全に」

「全国拉致監禁・強制改宗被害者の会」代表の後藤徹氏は10日、自伝「死闘 監禁4536日からの生還」(創藝社)の出版記念講演を東京都杉並区で開いた。集まった聴衆は約300人で、大手メディアも取材に来ていた。「孤独の苦しい時、本当に深刻に祈らざるを得なかった」と繰り返す後藤氏は、自身の12年5カ月にわたる監禁の体験談と共に、信教の自由を軽んじた強制棄教の悪質性を改めて訴えた。

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出版された自伝は主に4部構成となっている。第1章では家族との思い出や世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)との出会いを描きつつ、強制棄教を目的とした家族による最初の監禁被害に触れている。続く第2章と第3章では12年以上となる監禁被害と解放までの記録がつづられ、そして第4章では民事裁判で家族や監禁を指導した牧師・脱会活動家を訴えた裁判闘争をまとめている。

監禁当時の記憶を振り返る後藤氏の描写は生々しい。監禁部屋からかすかに聞こえてくる、防災無線の童謡「夕焼け小焼け」を耳にして「わずか一分ほどの懐かしいメロディに私は慰められた」(102㌻)と回顧する。ある時は風呂場の換気口に口を近づけ、大声で何度も叫んだところ、脱会活動家の宮村峻(たかし)氏に「襟首を掴まれたまま風呂場から引きずりだされ」「手に触れたものを片っ端から掴んで抵抗した」(113㌻)こともあった。

ゲストとして出席した徳永信一弁護士は、後藤氏の自伝を「日本の『夜と霧』だ」と評した。「夜と霧」(ヴィクトール・フランクル著、1946年)は、ナチスの強制収容所での体験を記した世界的ベストセラーだ。徳永氏は「ナチスの強制収容所の中では、人々の生きる支えになったのは小さな日常だった。実感はできないが、自伝には後藤さんの熱い叫びが流れている」と強調する。

後 藤 徹 氏 の 自 伝 「 死 闘  監 禁 4 5 3 6 日 か ら の 生 還 」

信者の強制棄教を目的とした拉致監禁事件は、ピーク時には年間370件超発生していたというが、後藤氏解放後の裁判闘争を通じてほぼなくなった。だが、完全になくなったわけではない。自伝「死闘」によると、2021年1月には20代信者が自宅で1カ月監禁され、トイレの窓から脱出する出来事が発生。24年にも都内の20代信者が監禁され、強制棄教されたとみられている。

「死闘」には「(教団が)解散ともなれば以前のように拉致監禁の猛威が全国へ広がるのではないかと憂慮する信者も多い」(236㌻)とあるが、その「憂慮する信者」の筆頭は間違いなく後藤氏本人だろう。

講演会には、家庭連合会長の田中富広氏も参加した。「脱会屋」と呼ばれる家庭連合を異端視する牧師や思想的な対立から敵視する活動家たちにより、親子の情が拉致監禁に利用されてきたことを強く非難。さらに、監禁事件によって信者の自殺やレイプなど、取り返しのつかない事件が起きていると言及し、「もし親が本当に子供を取り返したい(棄教させたい)なら、私が説得してでも返す。その代わり、拉致だけは本当にやめてほしい」と切実に呼び掛けた。

このほか、独立系ユーチューバー牧師の岩本龍弘氏は、「敵を愛せ」というイエスの教えがキリスト教にあるとしても、家庭連合は拉致監禁加害者に対しては毅然(きぜん)とした態度で戦うべきだと強調した。拉致監禁の被害を受けた家庭連合信者たちについて「名誉が回復され、損害が償われるまでは、この問題は解決されることはない」と訴えた。

拉致監禁による強制改宗の被害は約4300人以上とされる。後藤氏の事例ですら氷山の一角にすぎないとすれば、まだ表にすら出ていない「悲劇」が、幾つも存在する可能性はある。この問題は決して、闇に葬ってはならない。

(信教の自由取材班)

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