
文部科学省が東京地方裁判所に提出した世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)に対し解散命令を請求する証拠とした陳述書について、署名した本人から「書いていない」「事実と違う」などの情報が本紙に寄せられる中、新たに「知らないうちに自分が文科省の解散命令請求の証拠の中に入れられた」という訴えがあった。ほかに文科省の陳述書には、家庭連合ではない別の宗教団体の元信者の「被害」が紛れ込むなど、杜撰(ずさん)な“証拠”集めの実態が透けて見える。(信教の自由取材班)
「私の発言が悪用された。こんな失礼なことはない。逆に傷つけられた気分だ」
北海道札幌市在住の70代女性で、家庭連合の信仰を持つ杉谷幸江さん(仮名)は怒りを込めて語った。今も市内の教会へ通う杉谷さんは昨年、教団から信じられない連絡を受けた。文科省が東京地裁に提出した解散命令請求のための資料の中に、杉谷さんの裁判資料が使われていたのだ。
この裁判資料は1988年、札幌地裁で家庭連合の元信者たちが教団を訴える裁判を起こした際に、杉谷さんが家庭連合側の証人として裁判で証言した発言をまとめたものだった。
杉谷さんは原告の一人である元信者の女性と親しい間柄だったという。その女性は脱会理由を、教団の教えが間違っていると思ったからと主張していた。しかし、杉谷さんは証言の中で、この女性とは急に1年ほど連絡が取れなくなったことなどから「(信者の親類による)拉致監禁が本当の理由だと思う」と話していた。

自身が信仰を持つ教団を擁護するため、そして拉致監禁による強制棄教が行われているという真実を伝えるため法廷の場に立った。にもかかわらず熱心な信仰を持つ杉谷さんの証言は、解散の根拠となる「被害者側の資料」として提出された。しかも文科省から杉谷さん本人には「全く何の確認も連絡もなかった」という。「家庭連合を解散させたい人たちは、自分たちの有利なように持っていこうとしている。常識的には考えられないことだ」と杉谷さんは憤る。
現在、杉谷さんは教団を通じ、被害を述べたものではない証言を解散請求に利用されたのは「心外」として、文科省側の証拠から削除することを求めている。
他にも西日本のある女性による文科省の陳述書から杜撰な証拠集めが浮かび上がっている。関係者によると、この人物の会員経歴を調査したが、まったく家庭連合に通った形跡はなかった。
しかし陳述書を提出しているので、さらに調べると、女性は20年近く前に別の宗教団体・A教団の信者に勧誘されてA教団に布施などをしたもようだった。この女性は西日本のある都市で開かれたA教団の集会に参加し50代半ばのA教団トップに会った。その後、やはり家庭連合とは別のB教団の信者と出会い、その信者の勧めでA教団からは遠のいたという。
関係者によると、家庭連合信者になったことがないA教団元信者の女性は、文科省の陳述書に協力する以前、全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)に所属する弁護士が代理人を務める家庭連合に対する集団交渉の通知人となっていたという。家庭連合の信者になったことがなく、家庭連合に献金をしたこともない人物を「家庭連合の被害者」として文科省に紹介したのは同代理人らであるとみられる。
ただ、陳述書作成に当たっては文科省の公務員が面会や電話などで聞き取りをしているはずであり、確認すれば異なる宗教団体と分かるはずだ。あえて証拠に加えたのであれば、非公開をいいことに偽被害者を紛れ込ませる悪質性が潜んでいると言えよう。

息子が起こした訴訟は棄却済み
本紙は1月21日付で、信者本人が納得して行った献金に対して、信仰をしていない家族が返金を求めるため本人の意思に反して献金をさせられたとし、教団解散を懇願するかのように書いた事実に反する陳述書が提出されているケースについて報じた。安倍晋三元首相銃撃事件後に日本中を巻き込んだ家庭連合に対する批判騒動の中で、そのような陳述書はほかにも存在すると予想される。
関西で信仰をしていた田中花子さん(仮名)は熱心に家庭連合の信仰を続け、献金もしてきたが、老境に達して数年前に生涯を閉じた。関係者によると、田中さんは1人暮らしであったといい、信者の仲間を敬慕し交流していたという。
田中さんの死後、別居していた息子は母親の遺品から家庭連合の書籍や記念品を見つけ、母親の献金を取り戻せないかと考え訴訟を起こしたが、裁判で棄却された。関係者によると、田中花子さんが生前に献金の返金を求めたことは一度もない。
しかし、裁判所が被害を認めず田中さんの息子の請求を棄却したにもかかわらず、文科省が集めた陳述書の中には田中さんの息子のものが存在した。
解散請求では「慎重を期す」と言いながら、それとは裏腹に申告すれば確認もなく証拠にする文科省の手法が浮かび上がっており、法人の死刑宣告となる解散命令を非公開で審理する上で懸念されるところだ。
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