トップ国内【きょう45回目の「北方領土の日」】後継者育成が返還運動の鍵 札幌で高校生弁論大会 「無関心という冷戦続いている」 

【きょう45回目の「北方領土の日」】後継者育成が返還運動の鍵 札幌で高校生弁論大会 「無関心という冷戦続いている」 

新千歳空港に設置された「北方領土啓発ブース」=1月26日、千歳市

北方四島(国後、択捉、色丹、歯舞諸島)の返還実現を目指す北方領土返還要求運動が始まって79年の歳月が経(た)つ。日本政府はこれまで、旧ソ連時代を含めてロシアとの対話交渉を続けてきたが、その溝がなかなか埋まらない。それどころか、ロシアのウクライナ侵攻で交渉は遠のいている。こうした中でも、地元北海道では返還運動に向けてセミナーや高校生による弁論大会を開催するなど、領土返還に向けた啓発活動を地道に続けている。(札幌支局・湯朝 肇)

北海道では2月7日の「北方領土の日」を挟む1月と2月を「北方領土の日」特別啓発期間として位置付け、全道的な普及・啓蒙(けいもう)活動を展開している。その一環として1月18日、札幌市内で「北方領土を考える」高校生弁論大会が開催された。今年で39回目を数えるこの大会には全道9校105人の応募から選ばれた12人の高校生が演説。各自が持ち時間7分の中で、北方領土に対する思いや持論を披露した。

大会を主催した公益社団法人北方領土復帰期成同盟の渡邊修介会長は、「北方領土問題は日本とロシアの最大の懸案事項であり、国の主権に関わる最大の優先課題。そのためにはまず若い人を含めて多くの人に北方領土問題を周知することが大事。また、若い人の自由な発想による提案は返還運動にとって大きな支えとなってきた。今大会でも返還運動に向けた具体的な解決策を提案してもらいたい」と励ました。

今年の弁論大会では、「返還運動を進めるためには、日本とロシアの間で信頼関係を取り戻すことが求められる。現状では難しい側面もあるが、粘り強い対話と交渉を行い、一つの帰結点として北方領土を日露両国による共同管理を提案してみてはどうか」といった意見や「歴史的に見てロシアは不凍港を求めて戦争を行ってきた経緯がある。バルト海、黒海、そして北方領土。そうしてみると、ロシアは北方領土をなかなか手放そうとはしないだろう。それでも北方領土は日本の領土であることに変わりはない。今後はSNSを使い、北方領土に対する国際的な情報発信と情報共有を進めていくことが重要」といった提案もあった。

旭川藤星高校2年の芳賀尋子さんが最優秀賞に選ばれた。留学先のニュージーランドで出会ったシリア難民の友人から戦争や難民生活での話を聞き、80年前に島を追われた元島民の境遇を思いやった。「日本人にとって戦争は身近なものではないというが、それは嘘(うそ)です。戦争の現場の状況は報道されるが、その後の避難民のことは報道されなくなっていく。避難民である元島民にとって冷戦はまだ終わっていない。さらに元島民にとって辛(つら)いのは、誰も北方領土問題を知ろうともしない無関心が広がること。すなわち、今なお無関心という名の冷戦が続いている」と訴える。

最優秀賞に選ばれた 芳賀尋子さん=1月 18日、札幌市

この日の弁論大会では、第2部として元島民による講話がもたれ、語り部として国後島出身の佐々木タヱさんが壇上に上がった。

「国後島は自然が豊かで住みやすかった。経済的に豊かというわけではないけれど食べるのに苦労した思い出はありません。ただ、戦争が始まり空襲を受けるようになると不安な気持ちが募ってきました。結局、戦争に負けて、今度はソ連兵が島にやって来ると、それは恐ろしいものがありました。命からがら昭和20年9月半ばに島を脱出しました。8歳の時です。母親と妹、叔父、叔母ら親族8人を乗せた脱出船は8時間かけて根室に着いたのですが、本土での生活は楽なものではありませんでした。ただ、これまで生きてきての楽しみは北方墓参や自由訪問で島を訪れることでした。私にとっての故郷はやはり島なのです。それが今回のロシアのウクライナ侵攻で北方墓参が滞っていることは残念でなりません」

島を追われた時の様子を語る元島市民の佐々木タヱさん=1月18日、札幌市

国後島での生活を写真で紹介しながら語った。

2022年9月にロシア政府は、それまで日本との合意事項であった元島民と島民との交流を目的とした「ビザ(査証)なし交流」と、元島民が自由に島を訪問できる「自由訪問」を一方的に破棄することを通知してきた。元島民らが先祖の墓を訪れる北方墓参に関しては影響しないとしているが、ウクライナ情勢が膠着(こうちゃく)状態にある中、実現できていない。そこで北海道では「島の土を踏むことができないなら、せめて洋上からでも墓参したい」とする元島民の願いを受けて北方四島交流船「えとぴりか」による洋上墓参を22年から始め、24年度も8月20日から9月21日までの間に7回実施した。

「北方領土の日」特別啓発期間では、高校生による弁論大会の他に全国的な署名活動やポスター展が繰り広げられているが、1月24~26日には道内外からの観光客の多い新千歳空港に「北方領土啓発ブース」を設け、北方四島や近隣の根室管内市町村で案内パネル展示や抽選会などの参加型イベントを実施した。

元島民1世の平均年齢が89歳と高齢化が進む中、領土問題の解決が急がれている。同時に、返還運動を担う後継者の育成、さらに道民のみならず国民への周知こそ喫緊の課題となっている。

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