
文部科学省が世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)に対する解散命令請求のため東京地方裁判所に提出した証拠となる陳述書に捏造(ねつぞう)があると複数の情報が出ている問題について、来日したフランスの国際人権弁護士パトリシア・デュバル氏に聞いた。デュバル氏は、本紙1月21日付で報じた、文科省陳述書に署名した高齢の母親から陳述書に書かれた内容について「言っていない」と聞いた川口美由紀さん(仮名)とも直接、面会している。(信教の自由取材班)
――弊紙や共同通信の取材に応じた川口さんと対面で面談した印象は?
本人から生の証言を聞いた。報道の通り、自身を教会に導いたのは母親。そして母娘で30年以上、信仰生活を送ってきた。だが母親が捧(ささ)げた遠い昔の献金の経緯について、娘に唆(そそのか)されたと証言し、家庭連合の解散を望むと結んだ陳述書に、母親自身が署名したことになっている。
もともと母娘の信仰について、家族内で川口さんの兄は共感まではいかなかったが、長年反対を表にすることもなかったという。だが安倍元総理暗殺事件をきっかけに一方的な家庭連合批判のメディア報道が溢(あふ)れ、態度が大きく変わった。
文科省の解散命令請求を経て、一昨年暮れに国会で新しい法律、「特定不法行為等被害者特例法」が成立した。事実上、家庭連合向けに作られた法律で、施行されると国が支援し、献金被害の集団交渉に個々人が容易に参加できるものだ。
兄が法テラス(日本司法支援センター)に相談したらしく、後に文科省から母親に電話が来た。長時間に及ぶ聞き取りに答えて、陳述書は作成されたようだ。
何ということだろうか。その新法が、この家族に新たな分断を招くこととなったのだ。宗教行為として、当時母親が信仰心から行った献金は、文科省の介在によって、娘の教唆による望まぬ献金被害だった、と話がすり替えられたのだ。
ところで、文科省の虚偽陳述書疑惑は、共同通信の取材に応じたものが産経新聞で報じられた。これを受け、息子らが母親を訪ねてきて言ったそうだ。「陳述書の最初のページぐらいは読んでおいて」――。自筆による署名だと強調しながら、切り取り報道でも期待しようというのか。母親が中身の確認なく提出した捏造文書である疑いは、さらに深まったのだ。
娘はやむなく、本当の事実とはこうなんだと証言する「対抗陳述書」を家庭連合から東京地裁に提出することとなった。裁判官は新法によって生まれた新たな家族内の葛藤について、二つの陳述書を読み比べる事態だ。
実際、90歳を超える母親は、弟を加えた息子らと、娘の立場の違いの間に板挟みとなっている。では、ここで母親が信仰を放棄すべきなのか。そうではなく国は本来、信仰を持つ者の立場、持たない者の立場、双方に中立でなければならない。むしろ母親の信教の自由も擁護すべきなのだ。
国は被害者救済のつもりで新法を作ったのだろうが、結果としては、老齢で弱者となった母親の過去の人生を、別の筋書きに置き換える権威になっている。むしろ母親の晩年に、逆に新たな苦痛をもたらしてしまったのだ。
新法が煽り「被害」つくり出す
――新しい法律が、むしろ信者らの家庭に、悲劇をつくり出すとは皮肉だ。
川口さんの事例でも明らかなように、大前提としてメディアの大量かつ、問題点ばかりを追及する家庭連合報道が、社会にもたらした弊害は甚大だ。新興宗教への寛容性が低い社会風潮の中で、信仰者が宗教行為として過去、行った献金について、「金銭を騙(だま)し取られたのだ」、との憎悪まで関係する他の家族に植え付けてしまうのだ。
国が裁判費用を立て替える「特定不法行為等被害者特例法」ができたことで、兄は返金請求を思い立ったという。国家の制度によって家族が煽(あお)られ、“被害”でなかったものが人の人生を遡(さかのぼ)って容易に被害に作り替えられてしまう。平均で20年前、最も古いものだと60年前の献金が“被害”として報告されたというから驚きだ。
解散命令請求に対する東京地裁の審理尋問と並行する、新法適用の実態は、今回の来日で直接確認することができたものだ。
全国統一教会被害対策弁護団に積み上げられ、調停が申し立てられた集団交渉の請求総額は今日、50億円に上る。未来に及んでも、いつ何時(なんどき)、追加の被害がつくり出されるか不明だ。そうして家庭連合は今後、次第に財政破綻へと追い込まれていくよう、仕組まれているも同然だ。
【続き】 【連載】家庭連合解散命令請求 文科省陳述書捏造疑惑 識者に聞く 信教の自由は少数派のため 「監禁」被害 国際的周知へ 国際人権弁護士 パトリシア・デュバル氏(下)