トップ国内【連載】激動の北東アジア 日韓トンネルの可能性(3)供給網整備で摩擦回避 EU2倍の経済効果も 

【連載】激動の北東アジア 日韓トンネルの可能性(3)供給網整備で摩擦回避 EU2倍の経済効果も 

久留米大学名誉教授 大矢野栄次氏

ロシアがウクライナを侵攻して約3年近く経過した。外交・軍事専門家らは世界は新冷戦に突入したという見方を示す。日韓トンネル、国際ハイウェイの先にある「東アジア経済圏」を構想するに当たり、専制主義陣営の隣国、中国・ロシア・北朝鮮をどう取り込むかは大きな課題だ。

「日本とその周辺国が仲の悪い状況を続けるよりも、東アジア経済圏として一緒に豊かになる選択をすれば、EUの2倍程度のGDPを生み出す可能性がある」。こう語るのは「東アジア経済圏構想」の可能性を考察する第一人者でもある久留米大学の大矢野栄次名誉教授だ。日韓トンネルと樺太-北海道トンネル、樺太-シベリア・トンネルの3本のトンネル建設を前提に、国際的な貨物鉄道輸送路として物流の新幹線網を建設し、日本海を取り囲むように鉄道をつなぐ「環日本海経済圏構想」を提案。新冷戦を克服し得るプロジェクトとして自信を示す。

大矢野栄次氏  おおやの・えいじ 昭和25年、愛媛県生まれ。中央大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。佐賀大学経済学部助教授、久留米大学経済学部教授を経て、同大学名誉教授。地域開発や地方創生を念頭に東南アジアの経済開発論等の分野を研究している。著書に『ケインズとマクロ経済学』など多数。

大矢野氏は、構想は日本と韓国、北朝鮮、中国東北3省(旧満州)地域、シベリアを含む約4億人規模の経済圏形成を提案したものだと強調。この経済圏は欧州連合(EU)と同程度の人口規模で、EUの2倍の経済効果をもたらす可能性があるという。

大矢野氏は、日本海を囲むような環状線の鉄道建設を提案している。一般的に、往来するだけの「盲腸線」と呼ばれる線路は経済的メリットが少ない。「環状線」の方が同時に効率よく多くのものを運べるため、経済的効果が高い。

鉄道のメリットは人件費にもある。輸送手段のうち、船舶は石油や石炭を運ぶのに適し、航空機はICチップなどの電子部品を運ぶのに適している。それ以外の定期輸送物資は鉄道が最適だ。自動運転が導入できれば、人件費を削ることができるだけでなく、「隣国とトラブルが減り、物流がよりスムーズになる」と大矢野氏は分析する。

複数の国が関わる大規模なプロジェクトでは利害を巡って摩擦が起こるが「サプライチェーンには摩擦は起きない」と主張する。東アジアでのサプライチェーン形成を目指し、地域住民の所得を大幅に増加させることが国家・地域間の関係改善にもつながると指摘。中でも、文化的・政治的・経済的摩擦や歴史認識の違いなど、日韓には乗り越えるべき課題が多いが、これらは「経済的豊かさの向上と格差の解消によって軽減される」との見方を示した。

環日本海経済圏構想は、中朝露3カ国とも協力関係を結べるチャンスというのが大矢野氏の見立てだ。ロシアは歴史的にシベリア東部の開発を日本に依存している。

現在は、ウクライナ侵攻を理由に日本のシベリア投資は止まっているが、樺太からシベリア東部の経済開発に日本の技術を持ってくることに「ロシアは決して反対しない」と大矢野氏は考える。

また、中国の東北3省は、鄧小平の開放政策後の沿海開放都市の発展に貢献した人材が多い地域で、その分「経済的に疲弊している」と分析。中国政府は北京以南に投資している分、東北3省への投資は「十分ではない」のが現状だ。「日本と韓国が投資するチャンスはたくさんあるが、その投資効率を良くするのが3本のトンネルによるサプライチェーンの構築だ」

大矢野氏が描くシナリオはこうだ。

3本のトンネルのうち、ウクライナ侵攻を度外視すれば実現可能性がより高いとされる樺太-北海道トンネル、樺太-シベリア・トンネルの2本のトンネルと鉄道を建設する。経済的に疲弊したロシアの回復を見て、「うちも欲しい」と北朝鮮が発する可能性は十分にある。雇用チャンスが2倍、3倍に増えることも理解してもらうことが重要だと主張する。

(日韓トンネル取材班)

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