
文部科学省が世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)に対する解散命令を東京地裁に請求したことに遺憾を表明し、立ち上がったキリスト教徒がいる。松戸六高台聖ステファン礼拝堂(千葉県松戸市)伝道師の溝田(みぞた)悟士(さとし)氏だ。解散命令を憂慮するネット署名活動を昨年12月に開始すると、23日時点で1636人が署名。560件を超える応援コメントが寄せられている。(信教の自由問題取材班)
「安倍晋三元総理銃撃事件以降、旧統一教会への批判が急速に高まり、しばしば行き過ぎとも取れるメディア報道が見られるようになりました。ここで私たちは、自らの理性の力によって立ち止まって考えるべき時であると考えます」
署名の説明文では、家庭連合への解散命令請求の動きに対して「憂慮をしていることを宣言」し、「解散命令を認めない」と訴えている。
溝田氏は、キリスト教とは教義体系が違うことを理由に家庭連合を異端視してきた。
だが、大学生の時に通っていた教会の牧師が、家庭連合から脱会をさせる活動をしていたことがきっかけで、脱会した信者らと交流する機会があった。その中で、「家庭連合信徒も一般のキリスト教の人たちと同じ愛を実践していることが分かり、複雑な気持ちになった」と振り返る。
聖書には、ユダヤ教徒が「異端者」として扱っていた人々をイエス・キリストが差別せず交流した記述がある。
「家庭連合の人たちを異端者であるからと交流を禁じたり、隣人とみなさなかったりすることは、聖書の教えに反する」。溝田氏にとって、家庭連合を排除しようとすることはクリスチャンの精神に反するため、黙っていられないのだ。宗教界には、問題を改めようとしている家庭連合の個々の信徒を信頼し、「善導する(良いほうに導く)義務がある」と訴えている。
解散命令が確定すれば教団の建物を含めた財産没収は免れない。溝田氏はこのシナリオは望まざる結果を招くと危惧する。
「集まるなと言われれば、信者は地下に潜るしかなくなる。社会から排除され、居場所を失うことで、先鋭化・過激化することもあり得る」。だからこそ「団体存続を認めないといけない」と訴えている。
実際、関係断絶宣言の影響で一部の信者はアパート賃貸契約や就職内定が断られるなど人権侵害を受けている。溝田氏は「こんな例を出していいか分からないが」と前置きした上でこう指摘する。「ヤクザが家を持ってはいけないとすると社会がすごく荒廃する。家を持たないヤクザが社会にウロウロしている状況が安全なのか」
「家庭連合が1964年に宗教法人に認可されて以来、(解散について)何の音沙汰もなかったのに、安倍元首相が亡くなって2年の間で急に解散しろと言うのはひどい仕打ち」だと溝田氏。問題があるのなら、それが分かった時点で指導をするなり何か手を打つべきではなかったのか。警告書面の一つも送らずいきなり潰そうとする政府のやり方は「非常に不可解」で、「まるで執行猶予なしでの死刑宣告」と指摘。「指導監督責任を怠ったのは国だ」と強い口調で批判した。
「2009年のコンプライアンス宣言以来、(家庭連合は)自分たちの活動を反省し続けてきました。私たちが過去の『蛮行』を見て反省を行うように、旧統一教会の人たちも自らの『悪』と向き合い、行いを改め始めているのです」。署名の説明文では、変わろうとしている家庭連合に対する政府やメディアによるバッシングを「現代の魔女狩り」と表現した。
その上で、家庭連合に対しては厳しい注文を付けている。高額の物販が物議を醸した「霊感商法」については謝罪すべきだと強調した。神社で売られる物品などと比べてもかなり高額で「適正とは言えない」と批判。霊感商法を含め、過去の過ちを総括しなければ家庭連合は再生できないと断言した。