トップ国内【連載】脅かされる信教の自由-58- エピローグ(下)家庭連合の課題 「救い」と社会貢献の調和を

【連載】脅かされる信教の自由-58- エピローグ(下)家庭連合の課題 「救い」と社会貢献の調和を

<<世界平和統一家庭連合>>東京都渋谷区松濤
世界平和統一家庭連合(東京都渋谷区松濤)

安倍晋三元首相暗殺事件(2022年7月8日)から2カ月余りたった日曜日の朝、千葉県船橋市内の喫茶店で、高齢者6人グループの間から大きな声が聞こえてきた。

「統一教会の信者さんは皆さんいい人たちだよ。今のテレビ報道はおかしい」

情報ワイドショーを中心に、テレビが世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)批判の報道を続ける時期だった。声の主は70歳前後の男性。発言内容からすると、グループのリーダー格で、何かの縁で信者とかなり交流があるようだった。

残り5人は皆、聞いているだけ。男性の話は、マスコミ報道とのギャップが大きく違和感がある。しかし、家庭連合についての情報はマスコミ報道以外知らないので、口を挟むことができない。男性を除く5人の胸の内を推測すると、そんな状況だった。

それから約1カ月後、毎日新聞は世論調査を公表した。家庭連合の解散命令請求を「すべきだ」と答えた割合は82%で、「必要はない」9%を大きく上回った。この数字を見て、喫茶店での男性の声を思い出した。信者と交流した経験がある人が多ければ、世論調査の結果はかなり違ったものになったのではないか。家庭連合の取材を続ける中で、社会との溝をどう埋めるかがこの教団の課題だと気付かされた。

その一方で、世論調査の数字はマスコミの影響力の強さを示すものだった。新聞・テレビは今年「オールドメディア」とやゆされ、公平な報道から懸け離れた偏向体質が批判されている。中でも、強固な「反共」運動で知られる教団グループに対抗する左派メディアは、教団=「反社」という世論形成に大きな役割を果たしたと分析できる。教団側は、自らの真の姿を伝える情報発信が足りなかった間隙(かんげき)を突かれた格好だ。

人の救済を扱う宗教の中でも新興宗教は、内向き志向が強くなる傾向がある。“世俗”の価値観を基本とするマスコミの「信教の自由」についての理解の浅さは、信仰熱心な信者をより内向きにして、社会との溝を広げることにつながったのだろう。いわゆる「聖」と「俗」の葛藤だ。

 “バッシング”と言っても過言ではないマスコミ報道の中、信者たちが被害者意識を募らせることには無理からぬものがある。しかし、2世、3世への信仰の継承を考えれば、自らの努力によって社会から信頼を得ていくことは避けて通れない課題である。

家庭連合の田中富広会長によれば、教団のビジョンは①為に生きる幸せな家庭②地域と共にある教会③国と世界のために貢献する――だという。これらのビジョンは、家庭連合は本来、聖域に閉じこもるのではなく地域・国家・世界との関わりを重視する宗教団体だということを意味する。そのことは、友好団体に政治・ボランティア団体があることからも理解できる。

一方で、このビジョンを信者たちが共有し実践していたなら、冒頭で紹介したような声はもっと高くなったのではないかとの疑問が湧く。解散命令請求に「賛成」8割という数字は、信教の自由についてのマスコミと国民の理解度の浅さだけでなく、個人の救いに傾きビジョンの共有が弱かったことも示しているのではないか。教団の反省点の一つだろう。

信者個々人の救いと、教団が目指すビジョンをどう連結させていくのか。今年、宗教法人の認可を受けて60年を迎え世代交代の最中にある家庭連合としての大きな課題だと指摘したい。

日本社会との溝を広げた要因はもう一つ考えられる。教団が韓国生まれという事実だ。いわゆる「反日カルト」という“烙印”もここから生まれている。

教祖は韓国人で、故文鮮明師の妻韓鶴子総裁は韓国で健在だが、世界の信者に対し自分の国を愛することの重要性を説いている。その一方で教団や信者個人としては“聖”の深化を求め韓国への意識が強くなるのも当然だろう。しかし国家から法人格を与えられている日本の家庭連合は法律遵守(じゅんしゅ)はもちろんのこと、社会発展に寄与するという、世俗的な責務を負っている。田中会長をはじめ教団幹部はこの二つのバランスを取りながら教団ビジョンの実現に向けて信者を指導することが求められているが、過去には信仰熱心さ故に、後者が疎(おろそ)かになっていたことは否定できないのではないか。

オウム真理教が引き起こした凶悪事件は例外として、戦後長らく、わが国で信教の自由という民主主義の根幹に関わるテーマが社会の表面に出ることはほとんどなかった。そんな中、家庭連合の解散命令請求問題は、図らずも信教の自由に対する政治家、マスコミ、世論そして司法の理解の低さを示すものとなっている。と同時に、請求問題によって表面化した世俗との葛藤は、教団組織には社会に開かれた宗教法人への脱皮と、信者には個人の救いと社会貢献をつなげる方向に信仰の深化・普遍化を促しているように見える。=終わり=

信教の自由取材班=石井孝秀、窪田伸雄、竹澤安李紗、武田滋樹、豊田剛、早川俊行、藤橋進、本田隆文、森田清策(50音順)

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »