
イタリアのオンライン宗教専門誌『ビター・ウィンター』ディレクター、マルコ・レスピンティ氏が国際宗教自由連合(ICRF)日本委員会(代表=伊東正一・九州大学名誉教授)の招きで、12月6日から10日まで、東京はじめ日本の4都市で巡回講演を行った。
信教の自由と人権をテーマにした講演の中で、レスピンティ氏は侮蔑的な意味を持つ「カルト」という言葉は個人、組織、機関または国家が嫌う、自分たちと敵対関係にある団体や個人に向けて使われるとしながら、次のように語った。
「カルトは被害者を支配するために『洗脳』を行っていると非難されるが、この概念は西洋の新宗教運動を研究する大多数の学者、米国などの裁判所によって疑似科学だとして否定されている。メディアで広まっている『反カルト』の言説に対しても、大多数の学者団体は反対する。この事実は日本ではあまり知られていないようだ」
日本で1995年、宗教社会学者らが中心となって「日本脱カルト協会」(西田公昭代表理事)が設立され、今も活動を続ける。「カルト」を冠したこの団体のホームページは「カルトは人権侵害の組織」で、「人権侵害の正体を隠すためにマインド・コントロールを用いることが多い」と説明する。
安倍晋三元首相暗殺事件が起きた2022年の秋、NHKEテレの宗教番組「こころの時代」は、「問われる宗教と〝カルト〟」をテーマに、宗教学者らによる討論を放送した。その席には、日本脱カルト協会顧問、川島堅二・東北学院大学教授、同じく櫻井義秀・北海道大学大学院教授らが座った。
同席した島薗進・東大名誉教授は「(カルトは)学術用語としてはちょっと使えない」としながらも、討論は世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)=カルトという前提で話が進んだ。カルトとセットで使われることが多い「マインド・コントロール」という言葉も学者たちは口にした。
反家庭連合活動を続ける弁護士グループの弁護士たちも「マインド・コントロール」をよく使う。しかし、米国の新興宗教研究者の権威として知られるゴートン・メルトン氏は約30年前、世界日報の取材に対して「(新興宗教は信者を洗脳していると主張するような)学者はマスコミを利用して洗脳、マインド・コントロールという言葉を広めているが、それは新興宗教を攻撃するための政治的主張にすぎない」と指摘した。
米国には、新興宗教の信者は洗脳・マインド・コントロールの被害者だとして、若者たちを拉致して強制脱会(ディプログラム)させていた団体「カルト警戒網」(CAN)が存在した。しかし、裁判で敗訴し莫大(ばくだい)な損害賠償の支払いを命じられ、1990年後半に破産、解散している。
カルトやマインド・コントロールという言葉は、教団と信者に侮蔑の烙印(らくいん)(スティグマ)を押し、ひいては強制脱会という深刻な人権侵害を引き起こしてきたため、これらの言葉を使わなくなって久しい欧米と違い、日本ではマスコミだけでなく、著名な宗教学者まで使っている。レスピンティ氏は、この日本の特異性に言及したわけだ。
そして、「反カルト」活動家は、信教の自由を否定しているのではなく、「カルト」のみに反対していると主張するが、「すぐに一般化される」とも警告した。なぜなら、カルト概念は曖昧であることから、「真っ当な宗教」との線引きを誰が行うのかという問題を惹起(じゃっき)するが、必然的にこの言葉が向けられる対象は使用する側が恣意(しい)的に決めることになる。
「彼ら(弁護士たち)のほとんどは社会主義者や共産主義者であり、反共運動で成功を収めていた日本の特定の新宗教、すなわち家庭連合・統一教会を標的にしたかったのだ」とレスピンティ氏。彼らが唯物論者だとすれば、「反カルト」言説の根幹に反宗教主義が潜み、その政治的目的は反宗教社会の実現ということになろう。(信教の自由取材班)