グローブもバットも使わず、男女混合で行う5人制手打ち野球「ベースボール5(ファイブ)」が近年、注目を集めつつある。沖縄県内で球団を運営しながらベースボール5の認知向上と普及に取り組む山城祥太朗代表に競技の魅力と今後の展望を聞いた。
(沖縄支局・川瀬裕也)
ボール一球で手軽に
「結マール5」山城代表に聞く
ベースボール5はキューバ発祥のスポーツとされており、2018年に世界野球ソフトボール連盟(WBSC)によって、野球・ソフトボールに次ぐ第3の競技として正式に認定された。
1チーム5~8人で構成され、試合は男女混合の5人で行われる。ピッチャーは存在せず、打者がボールを地面にバウンドさせて自ら手で打つことが最大の特徴で、野球同様一塁から三塁まで進み、ホームベースに戻ることで得点を挙げる。
19年ごろから日本にも伝わり、国内での広がりが期待されたが、新型コロナ禍によってなかなか根付いてこなかった現状がある。そのような中でも知名度がある元プロ野球選手らが普及に力を入れるなど、認知向上に努め、徐々に浸透してきている。
今年、香港で行われた第2回W杯では日本はキューバに敗れたものの、2位の高成績を残している。また26年に開かれるユース五輪の正式種目にも認定されており、今後さらなる注目が期待されている。
中でも全国に先駆けて人気が広がりつつある都道府県の一つが沖縄県だ。同県南城市にホームを構えるベースボール5チーム「結マール5」の代表を務める山城さんは、同競技の沖縄での普及に日々力を注いでいる。
山城さんがベースボール5に出会ったのは1年前に県内で開かれた体験会だった。競技の手軽さと斬新さに心を打たれ「子供たちの野球離れ、スポーツ離れを変えられるかもしれない」と思い、自身でチームを結成。もっと多くの人に競技の存在を知ってもらおうと、定期的に県内各地で同様の体験会などを行っている。
山城さんはベースボール5の魅力の一つは、野球やソフトボールと比べた際の手軽さだと語る。どちらも大きな球場が必要なのに対し、ベースボール5は20メートル×20メートルの広さが確保できればプレーすることが可能だ。「公民館の小さなスペースや、安全な駐車場、空き地など場所を選ばず、屋内であれば天候にも左右されずボール一球で子供から大人まで楽しめる」とアピールする。
一方で、手軽でありながらも思考力が鍛えられる点も魅力的だという。「野球とソフトボールが凝縮されているため、頭を使わないと勝てない競技になっている」と解説した上で、「手軽だからこそ点を取るのも難しく、アウトを取るのも難しい」と語る。また、想像以上にアクロバティックな一面もあるといい、「子供たちが体力を鍛えるにぴったりな競技だ」と胸を張る。
中でも山城さんが注目するのはコミュニケーションスキルの育成につながる観点だ。長年教育現場で子供たちの指導に携わってきたという山城さんは、ベースボール5をする中で子供たちが自然とコミュニケーションを取るようになっていく姿を何度も見てきたという。「大人が『みんなでコミュニケーション取れよ』なんて言わなくても、子供たちが進んでやるようになるんです」と強調し、「勝手に子供たちが育っていくシステムだ」と胸を張る。
山城さんのチームはこれまで、夏休みの学童巡りや、地元小学生と米軍人の合同体験会などを実施してきたといい、これらの流れを今後さらに大きくしていきたいと語る。
山城さんの活動の原点はベースボール5を通して、「子供たちにスポーツの魅力を知ってもらいたい」との願いだ。自身も子供の頃から野球を通して多くのことを学んできたと振り返った上で、「点を取られた悔しさや、取り返した喜び、仲間の大切さなど、スポーツでしか学べないことを肌感覚で伝えていきたい」と意気込みを語る。
同競技が男女混合であることから「男性目線だけでなく、女性目線からも力を合わせてスポーツを広げていく、新たな可能性にも取り組みたい」として、いずれはスポーツを通した「婚活」などにもつなげていき、地域社会全体の活性化にも貢献したいと、未来の展望を明かした。