十文字学園女子大の浅見哲也教授が講演
「令和に生かす次世代型の道徳授業をつくる」と題して東京学芸大学で「道徳授業パワーアップセミナー」(先端教育人材育成推進機構)がオンラインと対面で開かれた。「子どもが生きる確かな授業の創意工夫」と題して十文字学園女子大学の浅見哲也教授が講演した。以下は講演要旨。(太田和宏)
掃除の時間はたくさんの道徳教育ができる場面
令和の日本型学校教育として、共通認識になっているのが「主体的・対話的で深い学び」で、授業改善の視点を表す言葉として使われている。その時代に即した言葉が選ばれているが、変わらない学習というものもある。
道徳科で言うならば「より良く生きるための基盤となる道徳性を養うために、道徳的諸価値について理解を基に自己を見詰め、物事を広い視野から多面的・多角的に考え、小学校では“自己”の、中学校では“人間として”の生き方について考えを深める学習を通して道徳的な判断力、実践力と態度を育てる」ということになっている。
学習指導要領の個別化を読んでいくと、「指導の個別化は一定の目標をすべての子どもたちが達成することを目指し、個々の子どもたちに応じて異なる方法等で学習を進めることである」となっている。
児童・生徒に対して特に配慮すべきことは、「授業中の発言がほとんどない」「文章表現が得意ではない」「表情に表れにくい」「発達障害のある児童・生徒」「海外から帰国した児童・生徒」「日本語習得に困難のある児童・生徒」といった子供への対応だ。教師は子供が、どんなふうに学んでいるのか、しっかりと見取って評価をしなければならない。
道徳科の評価の視点として①道徳的価値の良さや大切さについて考えようとしている②道徳的価値について、一つの見方ではなくさまざまな角度から捉え考えようとしている③道徳的価値について、自分のこれまでの体験から感じたことを重ねて考えようとしている④授業で学んだ道徳的価値の良さを感じ、これからの自分の生き方に生かそうとしている――がある。これらは道徳性ではなく、学習状況だ。例示であり評価基準のようなものがあるわけではない。
文字の大きさによって重要度を示すと言われるテキストマイニングだが、それが判断のすべてというわけではない。小さい文字でも、一人ひとりの生き方に関わる重要な、個性に満ちた意見を示していることもある。ICT(情報通信技術)端末が令和の日本型学校教育、「誰一人取り残されることのない教育」「一人ひとりの良さを引き出す教育」の道具として、道徳科でも使われていくことになる。
児童・生徒が本当に学びたいのはどんなことか。これ抜きに道徳の授業を語っても、結局は教師主体の授業になってしまう。一番大事にすべき子供のことが、いつの間にか教師の話に代わってしまっている。子供の話を聞くと「友達の考えを聞くのが好き」「友達と話し合うのが楽しい」などがあり、断トツに多いのが「教材の話が好き」で、この三つの意見に集約される。
道徳性とは①よりよく生きるための営みを支える基盤となる②道徳的行為を可能にする人格的特徴、人間の基礎をなす③人間らしい良さであり道徳的価値が一人ひとりの内面において統合されたもの――と学習指導要領の解説にある。
道徳教育は全教育活動を通じて行う。そして、道徳科の授業は内容項目に則して行うが、日ごろの教育活動の中で、どれくらい意識しているか。忙しくてそれどころではない。場面はあっても、圧倒的に見逃していることの方が多いのではないか。
掃除の時間にも、たくさんの道徳教育ができる場面がある。掃除を通じて行う道徳教育の例として声掛け。勤労、公共の精神を養う「みんなで使う場所をきれいに掃除しましょうね!」。友情、信頼を培う「友達同士、力を合わせて掃除をしましょうね!」。規則を守り、時間厳守する「掃除の時間は20分!時間までに終わらせましょう!」。強い意志を持って継続する「雑巾がけは大変だけど、しっかり頑張ってね!」などと励ましたり、方向性を示したりできる。
道徳学習の個性化は道徳科の授業だけで指導しないで、全教育活動を通じて行う道徳教育でしっかり指導してくださいというメッセージになっている。