「宗教団体等によって、『宗教等2世』は、・宗教選択の自由を奪われ・恋愛、婚姻の自由を奪われ・進学、就職の自由を奪われ・その結果、成人後の人生を含む全人生において、全人格を奪われた」
この全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)が9月21日に発した声明「旧統一教会の被害救済のため法整備求める」の中で示した一文は、マスコミで報道される「宗教2世」のイメージを端的に表していると言えよう。だが、信仰を持った親が子供とともに信仰をするとき、子供の自由を奪い、全人格を奪う――ということになるのだろうか。
学術誌「宗教研究」(2024年9月)に掲載された小島伸之氏(上越教育大学教授)による論文「『宗教2世』と子どもの権利」では、「仮にそれらの悩み・苦しみ・つらさを程度を問わずすべて『人権問題』『社会問題』として問題視」するならば、「行き過ぎである」と指摘している。「信教の自由や親権との深刻な葛藤」を生じさせ、「デリケートな親子関係や人間発達過程の機微を破壊することにも繋がりかねない」というのだ。
また、世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)の問題に対するメディアや政治の対応に触れ、「信教の自由の限界をどう画するのか、親子間の信教の自由の葛藤を国家がどの程度どのように調整するのかといった論点についての本質的な議論は、個別的な統一教会問題への迅速な対応ありきという前提によって糊塗されてしまったように思われる」と懸念した。
現役の2世信者はどう受け止めるのか。
教会職員を務める埼玉県在住の池田泰盛さん(26)は6年前に専門学校を中退し、今の仕事は誰に言われるでもなく、自分自身で選択した。「もともとトレーニングが好きだったこともあり、専門学校時代はダイエットや体力づくりなどを指導するスポーツトレーナーをやろうと思っていた」と振り返る。
実力があれば経済的にも安定し、クライアントからも尊敬を集められる職業だったが、「心のどこかで、ただ自分の好きなことでなく、もっと大きなもののために生きてみたい思いがあった」と話す。政治の世界にも関心があったが、信仰が「歪(ゆが)んだ社会を良くし、自分の人生の指針となり得る」と感じ、その思いが職業選択に反映されたという。
さらに2世信者の抱える問題について、別の観点からの指摘もある。
同じく教会職員で、都内在住の2世信者、牧孝治さん(28)は立場上、さまざまな2世信者たちと接する機会が多い。
「ある2世信者のケースでは、親から信仰を強要され反発しているのだが、既に成人しているものの親の扶養に甘えて生きている」「親には信仰で救われた実感があるので、子供への信仰継承に積極的になりやすいが、子供側も文句を言いつつ結局依存を深めていく」
そのような場合、教会に行く行かないを自分で選択させるため、牧さんはあえて「信仰は強制されてやるものではない。批判だけするのであれば、一度自由にやってみたらいい」と、親離れを勧めている。
だが、中には「『一人で暮らしたら、自分は教会に行かなくなりますよ』と脅しをかけてくる人もいる」といい、「“信仰”が親の支援を引き出す“武器”になってしまっている」と頭を悩ませる。
宗教は多くの場合、親から子へとその信仰は継承されていくものだが、継承されないことも多くある。その内心の葛藤は親子関係の一部であり、さまざまと言えよう。冒頭の全国弁連声明文のように、宗教2世を画一的に被害者と見るのは極論であり弊害あるものである。(信教の自由取材班)
=第5部おわり=