信仰する親の下に生まれた子が悩むように、信仰を持つ親もまた、子育てに葛藤を抱えている。世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)の2世問題が取り沙汰される中、宗教2世の成長を見詰める親の苦悩を探った。
「2世を育てるのは難しかった」
東京都在住の鈴木平治さん(仮名)はそう打ち明ける。信仰を前提とした結婚式に参加したこともあり、生まれてくる子供は自然と神様や信仰が分かるものだという思い込みがあった。だが、子供の成長と共に「それは違う」と悟ることになる。
家族全員で就寝前に祈りを捧げる生活を送ってきたが、子供たちが物心つくにつれ、だんだんと嫌がるようになった。平治さんは次第に、子供に信仰心を持たせることに心苦しさを感じるようになったという。
「いろんな家庭を見ると、教育方針はばらばらだった。だが、日曜の礼拝で、無理やり教会に連れて来させられている子供たちを見て、そうした行為は親への反発が生まれるだけだと感じ、私たちは信仰を強制することはよそうと決めた」。平治さんはこう明かす。
事実、娘の春音さん(26、仮名)によると、普通の家庭と同じように宗教や信仰について話題がほとんど出ないまま、小学校卒業まで育ったといい、「親から一度も教会に行きなさいと言われたことはなかった」という。
春音さんは教会のスポーツイベントに参加したことを機に教会に足を運ぶようになり、2020年には家庭連合の合同結婚式に参加した。親しい友人にそのことを話したところ、「『本当にそれで幸せなの? 親の信仰の言いなりになってない?』と言われた。自分で選んだと説明したものの、納得してもらえなかったのがショックだった」と顔を曇らせる。
信仰を持つ親がどれだけ子供の意思に配慮したとしても、子供が信仰を選択した場合、周囲の人間からは「信仰の強制」を疑われるのが日本社会の現状だ。
一方で、教会を離れていく2世を数多く見てきたと話すのは母親の佳代さん(仮名)だ。信仰を選ばなかった2世のありのままの思いを受け入れる姿勢が教会側に足りなかったのではないかと指摘する。
「信仰の有無はあれど、わが子が大切な子供であることに変わりはない。でも、自分は信仰を選ばない子に育てたと捉えてしまい、その子の離教を認めるということは、自分が行った子育てを全否定することのようで、受け入れるのが難しいという親の気持ちも分からなくはない」。信仰を持つ親の心の内をこう代弁した。
熱心な信仰と子供への愛情が噛(か)み合っていなかったことに気付き、親子関係の修復に尽力したケースもある。
今から20年ほど前、群馬県で教会長をしていた大下勝さん(仮名)は、激務のあまり自宅にはほとんど帰らず、教会で寝泊まりする生活を続けていた。自身としては献身的に仕事をしていたつもりだったが、当時高校生だった娘たちが「2世をやめたい」と反発してきたのを機に、「親としての責任が果たせていない。親はもっと子供の心に寄り添わないといけなかった」と気付かされた。
反省した大下さん夫婦は、それまでのマイナスの部分を埋めるつもりで、子供たちの心と向き合った。滞在時間がわずか30分であっても、車で1時間の道のりを厭(いと)わず帰宅するようになった。娘から電話がかかってきたときは、夜中の何時であっても電話を取って何時間でも話を聞いた。子供たちとの接し方を変える中で、もともと性格が異なり、意見が衝突しがちだった夫婦の関係性も良好になっていったという。
今では子供たちは全員、信仰を持っており、孫も生まれている。「冗談じゃなく、うちの子供たちは世界で一番だ」と語る大下さん。しかし、一方で「20年ぐらいはそうじゃなかったのは本当に申し訳なかった」とうつむいた。(信教の自由取材班)