妙(たえ)乃湯や鶴の湯など有名な温泉がひしめく乳頭(にゅうとう)温泉郷は10月下旬、紅葉の季節を迎えた。自然が残された一帯は乳頭高原と呼ばれ、ブナ林の回廊は圧巻だ。
秋田県仙北市の田沢湖に近い乳頭温泉郷は、有数の温泉地。「休暇村乳頭温泉郷」のホームページに掲載の「自然の小径」は約4㌔、60分の気軽な散歩道とある。休暇村の近く、田沢湖高原駐車場に車を止め、向かいの旧乳頭スキー場から歩き始める。
一帯はブナ林が多く黄葉が進む。ナナカマドやモミジの赤、常緑樹もあってカラフル。落ち葉を踏む音が心地よい。小さな橋を渡る。途中、文字の書かれたガラス板が3枚あった。「忘れられない香り」などが読める。写真の撮り方によっては森にくるまれた「私」が映し出される。
イワナの住む「蟹沢」の橋を渡る。水の透明感が抜群だ。ブナの純林からなる回廊を歩くと心が広々とする。すっくと立ち上がるきれいなブナもあれば、雪に押しつぶされた根曲がりブナにも出合う。
空吹(からふき)湿原、黒湯温泉を過ぎ、リニューアル中の孫六温泉に向かう。砂防ダムの堤防が滝のようで美しい。長い下り坂を降りると大釜温泉に着き、車道を歩いて休暇村に帰る。ヤマブドウを味わったり、真っ黄色の蔓ウルシの葉に触りそうになったりと、至福のひとときを過ごした。
(文・伊藤志郎)