
今回の衆院選は、自民党が世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)および関連団体と関係断絶して初めての国政選挙だった。結果は与党過半数割れの惨敗。「関係断絶」は選挙の注目点の一つとされたが、教団の友好団体、国際勝共連合は「自主投票」を決め、静観した。
「関係を切られたのだから応援できるはずがない。仲間たちは自民党以外の投票先をどこにしたらいいのかという話で盛り上がっていた」(同連合関係者)
勝共連合は1968年の設立以来、反共産主義を掲げて運動を展開。選挙では反共・愛国の理念に賛同する候補者を応援してきており、その多くは保守系候補だった。敵対した野党からは「長い闘いだった」と、サンデー毎日22年11月6日号で志位和夫共産党委員長(当時)が言及。永田町では知られた話だった。
自民党が教団および関連団体と「関係断絶」する前後、マスコミやネット上のコメンテーターから教団の信者数は数万人程度で選挙にさしたる影響はない―、とする発言が飛び交った。ただ選挙には、どの政党も候補者も人手がいる。投票依頼の電話掛け、ポスティング、遊説のスタッフなど、どれだけ人手を得られるかも当落を左右する要素になる。
「教団信者の数ではなく、勝共連合に理解を示す信者が一緒になって運動する。応援に入ったら本当に候補者の当選のため一生懸命になって運動したので、その活動量の影響は小さくはなかったはずだ」
同連合関係者は自負をもって振り返る。21年衆院選では当落線上の自民党候補を「各都道府県で何人かはガチで応援したのではないか」と述べた。僅差で当落が決まる接戦の小選挙区、および比例復活を巡っては、当選を決める集票能力の一部を担ったと言えそうだ。今回、自民は選挙前予想の接戦区を軒並み落としている。
教団関連団体が国政選挙で候補者を応援したのは、22年7月に行われた参院選まで。この選挙中に安倍晋三元首相銃撃事件が起きた。現行犯逮捕された山上徹也被告が供述したとされる内容が警察筋からマスコミに流れ、母親が高額献金をした家庭連合に恨みがあり、安倍氏が「近いと思った」ので殺害したと報道された。
被告の公判はいまだ始まらず、詳細は裁判で明らかになっていない。しかし、マスコミと野党は事件以上に教団と安倍氏、ひいては自民党との「接点」に批判を集中。野党議員の「接点」批判は党の報告をもって早々に収束したが、自民党に対しては9月の総裁選中も朝日新聞が安倍氏と関連団体幹部の面会写真を取り上げるなど、「モリカケ」同様延々と繰り返している。
事件後間もなく、岸田前首相は憲法が保障する思想、信条の自由に関わる問題に丁寧な討議もなく、一刀両断に家庭連合と関連団体への関係断絶を宣言。家庭連合は事実上の“反社会的団体”とのレッテルを貼られ、所属する信者や会員を不遇な立場に追いやった。同時に自民党は「接点」を巡り、違法性のない一般的な付き合いでも野党につけ込まれている。
自民の党内調査で22年9月に発表した所属国会議員179人の「接点」は、集会での挨拶、祝電など儀礼的な付き合いにすぎない。政府も当時、家庭連合を宗教法人法の解散の対象にならないとしていた。だが、岸田前政権は野党とマスコミの言いなりの対応を取り、数万人の信者が所属する家庭連合に対し宗教法人の解散命令請求を強引かつ性急に進めた。
この迎合は、強引さにおいてLGBT理解推進法、主に安倍派を標的とした政治資金不記載調査と処分、突然の派閥解散、今回衆院選直前の非公認などに通底するかのようだ。政権浮揚にも集票にも程遠かった。(衆院選取材班)