
公示日の15日午前、いわき市の小名浜魚市場には物々しい警備体制の下、大勢の人が集まった。首相の石破茂は選挙カーに上るのでも一歩高い台に上るのでもなく、平地でしかも聴衆とは数十メートル離れた所で演説を始めた。
「どこで第一声を上げるかずいぶんと悩んだ。能登も考えた」。こう切り出したのに続いて「福島の復興なくして東北の復興なし。東北の復興なくして、日本の復興はない」と、今年で13年目となる東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の被災地、福島と東北に思いを寄せた。今回の衆院選を「日本創生のための選挙」と位置付け、「いつの時代も国を変えるのは地方の人。このいわきから、この福島から新しい日本をつくっていく」と聴衆に訴えた。
福島県の選挙区割は今回の選挙から小選挙区が一つ減り4に改変された。太平洋沿岸の浜通り地方全域がまとまった福島4区となり、新人3人が立候補している。
自民党で元県議の新人・坂本竜太郎は、経済産業副大臣などを務めた亡き父・坂本剛二(ごうじ)の地盤を受け継いだ。国政初挑戦ながら、3候補の中では圧倒的な知名度を誇る。
衆議院議員を8期務めた元復興相の吉野正芳が体調不良を原因に政界引退を表明したことから、自民は急な候補者選びを迫られた。
坂本は演説で、「原発事故後の処理水の問題、汚染土壌の県外処分の問題。時間はかかるがしっかり取り組んでいく」と地元の課題解決に向き合う決意を示した。
立憲民主党で再エネ会社役員の新人・斎藤裕喜は、坂本とは県立磐城高校の同期。前党代表、泉健太の公設第1秘書を務めた。
「自民党一強ではダメだ。本当の強さというのは、苦しい人たち、悲しんでいる人たち、困っている人たちに手を差し伸べてあげられる人こそ、本当の政治家であり国のあり方だ」と立候補への思いを熱弁し、ライバルの坂本を牽制(けんせい)。名前が「ハンカチ王子」として一躍有名になった元プロ野球選手の斎藤佑樹と同じなため、ハンカチを出して汗を拭くパフォーマンスを見せ、聴衆の笑いを取る場面もあった。
共産党の新人・熊谷智は、「石破総理はわざわざ福島に来たにもかかわらず、原発ゼロとは一言も言わなかった」と批判。さらに、「国会を開いていると裏金問題や旧統一教会との癒着を追求されるからなどという自民党の都合で解散を急ぎ、今回の総選挙に逃げ込むように突き進んだ。自民党と石破総理に、被災者や被災地に寄り添うなどという言葉を使う資格はない」と石破自民党を断罪した。
福島4区の有権者数は約3分の2がいわき市に集中しており、大票田となる同市の票が結果を大きく左右する。いわゆる裏金問題にも絡んでいないとなると、同市で知名度が高い坂本竜太郎が断然有利となると思われた。
ところが、各種世論調査によると、坂本と斎藤が大接戦の様相を呈している。自民党公認というだけで風当たりは強い。「楽勝だと思っていたが、予想以上に自民党への逆風を感じる。開票までは油断できない」(自民党関係者)との声も聞かれる。
3候補ともに40代。世代交代が進む中、いずれにしても浜通り地方には若い風が吹くことになりそうだ。(敬称略)
(衆院選取材班)
【福 島】
▽4 区(3人)
斎藤 裕喜45☆会社役員 立新
熊谷 智44 党地区委員長共新
坂本竜太郎44☆元県議 自新
推(公)
☆は比例代表との重複