17日夕方、八王子駅北口は何百人もの人だかりができていた。その視線は、首相の石破茂と自民党総裁選を戦った元経済安保相・高市早苗に向かっていた。
「確かな実績を持って日本を前に進める萩生田光一という政治家は、何をやっても結果を出す、私にとってまぶしい存在。外国人と会ってもこのキャラは伝わる。押し出しが強い、ケンカに強い、親分肌、面倒見が良い」
全国から応援依頼が殺到しているという高市は、旧安倍派で切磋琢磨(せっさたくま)した自民元政調会長・萩生田の賛辞を並べた。
萩生田は派閥パーティーの政治資金収支報告書不記載の問題で非公認となった。比例復活できないため、選挙区で当選するしかない。
公示日15日の午前、多くの支援者が集まった八王子駅北口で行った第一声の冒頭、「政治不信を招いたことで、心配や不快な思いをした人々にお詫(わ)びします」と深々と頭を下げた。
萩生田は八王子市議、都議を経て、2003年の衆院選で初当選した。以後、官房副長官や文部科学相、経済産業相など要職を歴任。元首相で派閥領袖(りょうしゅう)の安倍晋三亡き後は、安倍派をまとめる「5人衆」の一翼を担った。
第一声では「脱税しようとする意図はなかった」と説明。「やり直し、出直しの機会を与えてもらった」と気持ちを新たにした。
「地元の力でもう一度国政へ」というのぼりが多く掲げられたが、選挙カーやポスターには「自民党」と書かれていない。非公認のハンディを克服すべく、自民党東京都連会長や八王子市長など多くの弁士が駆け付けた。その中の一人、参院議員の有村治子(自民)は、「八王子に縁もゆかりもない候補は打倒自民・打倒萩生田が目的で、地域や日本発展のビジョンはない」と批判を強めた。
野党やマスコミは、政治とカネの問題と並んで世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の関係団体との過去の関係を批判する。演説後、記者に囲まれ家庭連合との関係について問われると、「“ズブズブ”という言葉をマスコミで使う人もいるが、私にとって地元で接点のあった一団体との関わり。それ以上でもそれ以下でもない」と話し、極端な報道に苦言を呈した。
一方で、打倒自民の急先鋒(せんぽう)として立憲民主党が擁立したのは、ジャーナリストで元参院議員の有田芳生。立民代表の野田佳彦は、通勤・通学の人々が多く行き交う八王子駅北口を第一声の場所に選び、「裏の自民政治と決別しよう」と訴えた。
「今、歴史の転換点に立っている。まっとうに暮らし、まっとうに働く人が報われない今の社会を、この選挙を通じて変えていかないといけない」。こう力を込めた有田は、「石にかじり付いても、岩をこじ開けても、最後まで全力を尽くして戦っていく」と覚悟を語った。
有田は昨年4月、安倍の後継を選ぶ衆院山口4区補選に立候補したものの、自民公認候補にダブルスコアで敗れた。それに続く国政への挑戦だ。
自身のX(旧ツイッター)には「市民を前面に、僕(候補者)を応援してくれる政党や労働組合、各種団体が後ろに回って、できるだけ対等・平等に支えてくれる『八王子モデル』で挑戦したい」と投稿した。立民の沖縄県連事務局長を務めた経験から、共産党をはじめとした革新政党・団体が共闘する「オール沖縄」をモデルケースとしている。
保革対決の構図が顕著になる中、萩生田に推薦を出していない公明党の票の行方が、情勢を大きく左右する。八王子市には創価大学があり、公明党の支持母体・創価学会の影響力が大きい。出馬会見で有田は、「八王子の創価学会、公明党の方とはいまだ接点がある」と話し、公明側に秋波を送る場面もあった。
八王子では複数のミーティングを開いているが、口を開けば自民批判・萩生田批判ばかり。無党派層への浸透に課題を残す。(敬称略)
(衆院選取材班)