第50回衆院選が15日公示され、27日の投開票に向けて激しい選挙戦が繰り広げられている。石破政権を構成する自民、公明両党が過半数を維持できるかが注目される。注目区の現場を取材した。
「呪われた選挙区」 ネット上で東京15区を揶揄(やゆ)した言葉だ。IR(統合型リゾート)汚職、公職選挙法違反と、2代にわたり議員の不祥事が続いた。4月の補欠選挙では立候補者による悪質な選挙妨害も発生。選挙後にトラブルを起こした政治団体の代表など3人が逮捕されるなど、政治への不信と混乱の象徴として全国に知られることになった。各候補者は地に落ちた選挙区のイメージ払拭の戦いも求められている。

「日本は派閥や政党政治を乗り越えて、国民を向いた政治を行わなければ、新しい政治の枠組みを作らなければいけない」
無所属で出馬した須藤元気が15日、東京メトロ東陽町駅前で第一声の演説を行うと、集まった聴衆から拍手が上がった。
ぴかぴかと光る赤や青の電飾を取り付け、「江東区を元気に!!」ののぼりを付けた自転車で選挙活動を行う姿は印象的だ。加えて、親交のあった元参院議員・故アントニオ猪木の決めぜりふを拝借し、「1・2・3・ダー!」で演説を締めるなど、親近感を抱きやすい。
4月の補選では無所属ながら投票数2万9669票を獲得し、2位と健闘した。今回の5人の候補者の中では46歳の最年長。元参院議員で知名度もさることながら「生まれも育ちも江東区」であることを積極的にアピールする。
勢いのある須藤に対し、厳しい戦いを余儀なくされているのが、補選で9人立候補の混戦を制して当選した立民の酒井菜摘だ。当初は現職の再選を楽観視する声もあったが、補選で擁立を取り下げられた共産新人の小堤東が出馬。野党一本化により前回選挙で獲得した4万9476票が割れる痛手は大きい。
東京メトロ東陽町駅前で出陣式を行った酒井は「必ず国会に戻り、まっとうな政治のために全力を尽くす」と訴えた。くしくも補選初日、同じ場所で行った街頭演説には立民から元代表代行の蓮舫、共産党委員長の田村智子、社民党党首の福島瑞穂といった大物政治家が勢ぞろいし、数多くの支援者が駆け付けていた。 応援に駆け付けた区議からも「隠しようもないが厳しい選挙だ。人手も足りていない」という声が漏れる。
補選では自民が候補を見送る「不戦敗」となり、都知事の小池百合子が推薦した作家の乙武洋匡に公明が推薦を出さないなど、保守票が分散したことも有利に働いた。
今回、自民は全国でも最年少候補となる25歳の大空幸星を擁立。「裏金」や不祥事などとは縁のないクリーンなイメージを前面に押し出すだけでなく、大学在学時にNPO法人「あなたのいばしょ」を設立し、多くの相談を受け付けてきた“実績”も強調。公明からの推薦も取り付けた。
公示日前の6日には、選対委員長の小泉進次郎が駆け付けた。石破政権になって初の街頭演説場所として15区を選ぶなど、自民の力の入れ具合が伝わる。小泉と共に演説した大空は「政治への信頼回復という言葉があるが、そもそも回復する信頼がなかったのではないか。信頼回復ではなく、信頼を作っていく」と決意を述べた。
前回衆院選と補選では日本維新の会公認として出馬した金沢結衣は9月、離党届を提出した。無所属で立候補し、「『民間の当たり前』を国政に」をテーマに「政治とカネの透明化」を強く訴える。(敬称略) (衆院選取材班)