
安倍晋三元首相が銃撃された事件から3カ月後の2022年10月20日、世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)が記者会見をした。何台ものテレビカメラが並ぶ中、20人の2世信者が登壇した。全国各地の教会の責任者に任命されたことが報告された。ここに立った一人が影山権龍さんだ。
「まさに青天のへきれき。予想だにしなかった」。自分の器では到底務まらないというのが率直な気持ちだった。
影山さんは7月20日、新潟市で開催した信教の自由をテーマにしたシンポジウムで登壇し、こう話した。
「中高生期、私は反抗期だった。親の信仰に反発し、『宗教』という言葉が嫌いで、神の存在は信じていなかった。親の存在を鬱陶(うっとう)しくも感じていた」
当時、周りの人々が酒やたばこに走り現実から逃避しようとしているのを目の当たりにした。さらに、中学2年の時、1歳上の親しい先輩が深夜のグラウンドで集団暴行を受けて死亡する事件が起きる中で、「心の中に陰りが生じた」。
「教会に行けば素晴らしい」「神は存在している」「人のために生きることは素晴らしい」「あなたは神の子である」――といった教会で聞く教えと現実のギャップがあまりにも大きく、大学に進むタイミングで、「親と縁を切り、信仰を捨てようと思った」。
そんな中でも、教会の中で、「お兄さん」と慕う2世の先輩には心を許すことができた。すべての悩みを打ち明けると、「苦しかったね、辛(つら)かったね、よく耐えてきたね」と思いがけない言葉が返ってきた。なぜ泣くのか尋ねると、「だって権龍は弟じゃないか。弟が苦しかったらその思いは分かち合っていくのは兄弟じゃないか」。先輩の温かい心に触れて、「凍り付いていた自分の心に少しばかり愛が届く感覚があった」と振り返る。
先輩の勧めで研修会に参加したが、「ここで掴(つか)むものがなければ全部捨てて親と本当に縁を切る」ぐらいの気持ちはあったという。メディアでバッシングを受け、ネットを開けば誹謗(ひぼう)中傷の中にある。親はなぜこの家庭連合の信仰を持っているんだろうか。何か間違ってきたんじゃないか――。
研修会中、山で祈った時に、「自分も苦しかったけど親も苦しかった」ことを痛感し、「愛してる。おまえのことをずっと愛してきた」という「神の声」を感じたという。積年の疑問に対する答えを得た瞬間だった。
同じような2世信者は多いと影山さんは指摘する。「宗教2世=信仰強要、虐待というネガティブイメージが刷り込まれていて、まるで自分たちも被害者の一人になっているのが世のイメージ」だが、「むしろ前向きに意志をもって信仰している2世が多くいることを訴えていきたい」と話す。
影山さんは現在、老若男女の幅広い年齢層を相手に教会長を務める。安倍元首相の襲撃事件をきっかけに、末端の信者の声が反映されにくい体制だったことが浮き彫りになった。「これまで主体性・創造性をもってやっていなかった。末端の信徒の声が反映されるような教会運営が必要だ」と決意。「教会は信徒を支える組織であるべきで、教会運営の主人公は信徒一人一人」との信念から運営委員会を立ち上げた。
シンポジウムに参加していた年配の信者は、教会長が若返ったものの「若い世代が少ない」と嘆いた。日本は少子高齢化社会を迎えているが、家庭連合の信者構成も例外ではないようだ。影山さんは、「日本の宗教界全体に信仰継承の課題がある。先輩が築いた伝統を相続しながら、2世にバトンを渡していける教会になれるかが課題」と強い問題意識を持つ。
(信教の自由取材班)