
「不当寄附勧誘防止法」の施行後2年をめどとする見直しに向け、全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)が「かつての準禁治産制度類似の制度」の導入などを求めている。同法は、安倍晋三元首相暗殺事件で逮捕された山上徹也被告が、母親が入信する世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)への高額献金を犯行動機として供述したとされる報道から起きた同教団批判を契機として制定された。だが、宗教を信じお布施、寄付、献金を行っている人を“準禁治産者”扱いにすることは、家庭連合だけでなくすべての宗教への影響が懸念される。(信教の自由取材班)
全国弁連は9月21日、「旧統一教会の被害救済のため法整備求める」という声明を発表している。その中の「不当寄附勧誘防止法の見直しについて」では、2022年12月10日に成立した同法の付則に施行後2年をめどに「検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずる」と定めていると指摘。この検討の際に、「際限なく献金をさせられている信者」の家族が「家庭裁判所の監督の下で、信者本人に代わって献金を取消し、その財産を管理することのできる制度(かつての準禁治産制度類似の制度)を設けるよう求める」と要求している。
準禁治産制度は禁治産制度と併せ戦前から1999年度末まで続いた制度で、今の成年後見制度の前身。「禁治産」とは自分で意思決定する能力がない「心神喪失」の状態にあり、自分で財産を管理・処分することを禁じられていることを指す。
「準禁治産」は、心神喪失とは言えないが、統合失調症、アルコール・薬物中毒などによる精神機能の障害で判断能力に支障を生じたケース。そのような者に家庭裁判所が準禁治産の宣告をすると準禁治産者になり、保佐人(多くの場合は家族)を選任、保佐人の同意のない賃借などの法行為を取り消すことができ、刑法上は刑が減刑された。
このような制度を寄付行為にも当てはめるのは、信仰を持つ人の宗教行為をある種の精神疾患と見なす差別を助長しかねない。
ほかに声明では、▽同法の行政処分の要件・処分基準の見直し▽禁止行為の要件の規定の見直し▽宗教法人以外の宗教団体への適用――などを要求している。その背景には同法施行後、消費者庁が公表した不当寄付勧誘を訴える情報の処理件数で「勧告又は命令を実施したものも勧告又は命令を実施する法令上の要件を満たさないものは1件もないとされている」と、全国弁連は同法に抵触する案件がないことを問題にしている。だが、要件を満たすものも要件を満たさないものもないということは、ほとんどが関係ない情報が寄せられているからだ。
同法に関して消費者庁に寄せられた情報のほとんどは、「寄附ということに関わらない」人間関係のトラブル、金銭トラブル、行政への意見であったと昨年11月2日の記者会見で新井ゆたか消費者庁長官は語っている(同庁HPから)。また、調査対象情報の大半は匿名や連絡先を記さない人物からのもので、同長官は「情報提供フォームでも、必ず連絡先を書いてくださいとしております」と注意を促している。
同法では禁止行為として、①不退去(訪問先で寄付を求め帰らない)②退去妨害(来場者に寄付を求め帰らせない)③勧誘をすることを告げず退去困難な場所へ同行④威迫する言動を交え相談の連絡を妨害⑤恋愛感情等に乗じ関係の破綻を告知⑥霊感等による知見を用いた告知――を規定。
寄付者への配慮義務として①自由な意思を抑圧し、適切な判断をすることが困難な状況に陥ることがないようにする②寄付者やその配偶者・親族の生活維持を困難にすることがないようにする③勧誘する法人等を明らかにし、寄付される財産の使途を誤認させる恐れがないようにする――ことが定められている。違反には、必要な措置を求める勧告や命令がなされる。さらに虚偽報告に対する罰金、命令違反への拘禁刑が定められている。
同法施行に当たり消費者庁は、「寄附勧誘対策室」を設置し情報を受け付けており、昨年度は1701件の相談のうち調査対象情報件数は124、そのうち処理件数は85、調査中39だが、「勧告又は命令を実施したもの」はゼロだった。
なお、今年度これまでに「勧告又は命令」があったかについて家庭連合本部に問い合わせたところ、「ない」との回答だった。
「マインドコントロール」条文化回避 警戒を要す言い換え
ちなみに安倍氏の事件が起きる前、消費者庁に寄せられた全ての消費生活相談のうち「旧統一教会」に関して見ると、21年84万6922件のうち27件、20年94万2536件のうち33件、19年93万9645件のうち57件、18年99万6807件のうち61件、17年94万1560件のうち57件、16年89万734件のうち77件、15年92万9994件のうち88件…と相談件数の中でも少ない上、減少傾向にあった。また、同法制などにより22年に相談件数は増えたが、同法に触れる案件は出ていない。
「大山鳴動して鼠(ねずみ)ゼロ匹」「法律作ったけど一度も使われていないのだとすれば、本当にそれは必要だったのか、という議論は当然出てきてしかるべき」と、国際弁護士の中山達樹氏は自身のブログで疑問視している。
確かに、22年秋の臨時国会は旧統一教会問題に明け暮れ、会期末に同法成立となった。だが、共産党や立憲民主党など野党は「マインドコントロール」の文言を盛り込むよう求めて与党と対立した経緯がある。マインドコントロールは米国の心理学会で認めていない“似非(えせ)科学”であり、家庭連合以外の宗教団体も強い反対の声を上げた。このため同法の「マインドコントロール」の条文化は回避された。
しかし、同法付則の施行2年をめどとする見直し時期を控え、全国弁連が声明で訴える「かつての準禁治産制度類似の制度」の導入は、マインドコントロールを言い換えた表現といえ、警戒を要する。このような要求の暴走により、宗教を信じる人たちへの新たな人権侵害が懸念される。
また、家庭連合に対する全国弁連のような宗教団体を標的にした弁護士らによる献金取り消し、返金請求活動の活発化、あるいは入信して寄付や献金をしたものの離教した個人による本人訴訟などが乱発しかねない。宗教団体はもとより、あらゆる寄付を募っている法人・団体を巻き込む問題である。






