
世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)への報道に対して、現役信者たちから「偏向報道だ」という声が上がる中、信仰に積極的でない2世信者からも懸念の声が出ている。
千葉県在住で30代女性の飛田奈誉さん(仮名)は現在、いわゆる合同結婚式で出会った男性と結婚して子供も1人誕生している。だが、教会にはあまり出向かず、献金や自宅での祈祷(きとう)会なども、結婚してからはほぼ実践していないという。その理由を「教会が苦手だから」と話す。「神様とか教会の教えとか、教祖とかよりも普段の生活や趣味の方が大事。教会に足を運ぶのも面倒くさいし、誘われても断ることの方が多い」
子供の頃から良い思い出がなかった。小中高生の時期には、学校の長期休暇の際に教会の研修が行われていたが、「修練会」と呼ばれるそれらの研修が苦手だった。「やる気のある子とそうでない子の差が激しく、私も孤立してしまうことが多かった。その場で初めて会う人も多いが、友達づくりをする雰囲気はなく、研修が終わると関係は切れてしまう」。やる気のあるグループの空気にも乗れず、食事のときに多くの人の前で祈りを捧(ささ)げる順番が回ってくるのも、大きなストレスだった。
親に対しても恨みの思いが強い。自身の親を「子供の目から見ると家庭の問題に目を背けて、その分、教会の仕事に力を入れている」と批判。「自分が大変だった時期に、あまり踏み込んで向き合ってくれなかった。自分の立場や体裁の方が大切で、自分の生活を崩したくないのだろう」と不信感を露(あら)わにする。
「宗教2世として生まれてきて、よかったと思えることはあまりない」と強調する飛田さんだが、一方で「親を何だかんだ裏切れない気持ちがある。離教は親との断絶を意味するし、そこまでして孤独になりたいとは思えない」と複雑な思いを吐露する。「教義や組織に対して間違っているとは思っていないが、信仰や教会に興味はないのに、興味があるふりを続けるのはつらい。そういう信者は結構いると思う」
飛田さんにとって、信仰するか離教するかより、「安心感を得られるかどうか」が重要だった。教会や信仰に関心ないにもかかわらず、教団の合同結婚式を希望したのは、「結婚すれば今よりも幸せを感じられるのではないか」と思ったからだ。今も結婚生活には満足しているという。
しかし、教団の解散命令請求については「できれば解散してほしくない」と断言。解散が確定すれば、教団や信者へのヘイトがより高まり、SNSなどでの誹謗(ひぼう)中傷が増加するだけでなく、直接的な暴力や襲撃事件が起きることも恐怖だった。「自分の子供も暴力に遭うかもしれない」と最悪の不安がよぎる。
安倍元首相の暗殺後、連日のように流れていた家庭連合への報道に対しては「被害者もいるから、それを糾(ただ)すべきだという主張は間違っていない」としつつも、「教団側の記者会見や擁護的な発言もすべて『統一教会の人間は頭がおかしいから駄目』の一言で全部シャットアウトして、自分たちだけの主張で自己完結していると感じた」と振り返る。何をどう言っても、どうせ聞く耳を持ってくれないという虚(むな)しさで、吐き気を感じたこともあった。
宗教2世の信仰の在り方について、飛田さんは「大事なのは本人がどうしたいかだ」と指摘。教団の解散ばかりが話題に上がりやすいが、「親に謝ってほしいとか、自分を認めてほしいだけという人もいる。本当に宗教2世の問題を解決したいなら、まずは親と話し合える場を設けるべきだ」という。(信教の自由取材班)