「家庭連合や信者などの関係者に対する偏見・差別が社会に渦巻いていると感じた。とても普通とは思えず、小さな声だが取り上げてほしい」
東京都在住の木山良亮さん(26、仮名)は、取材に応じた理由について話した。木山さんは教団の信仰をやめた「離教2世」だ。離教に至る経緯などは「話せない」としつつ、「教会を離れ、関係者であることを忘れて生きてきたが、家庭連合がやり玉に挙げられるようになり、関わらざるを得ないことになった」と真剣な口調で話す。
安倍晋三元首相の暗殺事件が、木山さんに大きな変化を与えた。事件の発生を耳にし、ネットニュースを開いてみると、ハッシュタグの中に「宗教団体」という言葉を発見。ひやりとしたものを感じたという。
その後、「旧統一教会」と名指しで報道されるようになり、現役信者も元信者も含めて、これから社会からどんな扱いを受けていくのかを想像し、「とてもショックだった」という。
家庭連合がメディアで「反社団体」など批判的に報じられれば報じられるほど、離教していても「反社」の元関係者と扱われ不利益を被るかもしれない恐れから逃れられなかった。「職場でも教団が話題に上り、それを聞きながら心がつらかった。ばれたらどうなるかと心穏やかでなかった」と声を落とす。家族や知り合いの2世信者の顔も頭に浮かんだ。深く傷ついているのではないかと不安に駆られるあまり、ついには不眠症に陥って職場にも行けなくなった。
実際、知り合いの2世たちの中にも体調を崩したり、不眠症になってしまったケースがあるといい、「教団が解散しても法人格がなくなるだけで大して変わらないという主張はよく聞くが、それだけとは思えない」と懸念する。
衝撃を受けたのは、立憲民主党など野党議員の対応だった。「事件前、私はどちらかというとリベラル寄りの考えで、野党の主張にも共感するところがあった」。ところが、人権を重視すると思っていた議員たちが、家庭連合関係者に「反日」のレッテルを貼り、時には「壺(つぼ)」と侮蔑する姿に思わず脱力した。
次第に「宗教2世」報道が増え、離教した2世たちが被害者と世間で見なされるようになった。しかし、木山さんは一連の報道に納得できていない。その理由を「大多数の宗教2世が抱いている複雑な立場や思いを、まだメディアは扱い切れていない」と語る。
「大抵の2世は教会内に家族がいるし、友人もいる。立場も簡単に教会側とか、反教会側と分けられるものではない。世間は『恨みを教団にぶつければいい』と思うかもしれないが、教会からフェードアウトするまで、ずっと教会の中で生きてきた。どうしても良いことも悪いこともあったという結論に落ち着いてしまう。感情のすべてを教団にぶつけるのはむしろ心が苦しい」
さらに「一番嫌なのは自由がないことだ」と打ち明ける。メディアに登場する「マインドコントロール」などを主張する弁護士やジャーナリストは、「自分たちの意思で信仰している2世たちの存在を絶対に認めようとしない。むしろ『認めるべきでない』という主張をしているのが窮屈に感じる」という。
枠にはめられた「被害者」としての「宗教2世」の人物像や言動を取らなければ、世間から「まだ教会側」「洗脳が解けていない」という烙印(らくいん)を押されてしまう。実際にそういった扱いをされた経験が、木山さんにはあった。「離教していても親と仲のいい2世は知り合いにもたくさんいるが、それを言うことも許さないという圧力を感じる」と深いため息をつく。
(信教の自由取材班)